人為的な温室効果ガスの排出による地球温暖化や、数年〜数10年規模の自然変動に伴うグローバルスケールの気候変動に関連して、世界各地で気候の診断や予測の研究が行われています。本コースでも、気候力学、大気海洋相互作用、物質循環、雪氷寒冷圏といった様々な視点から、地球温暖化や気候予測に関する研究が行われています。
ここでは、気候モデルを用いた数値シミュレーションによる地域の気候予測について紹介します。気候モデルは物理法則に基づいて定式化された方程式系をコンピュータ上で解き、気温や風など気象要素の時間変化を計算する手法で、日々の天気予報にも用いられています。
北海道のような限られた地域の気候を予測する際に、地球全体の気候を計算する数値モデルでは水平分解能が粗く、細かな地形の影響など地域気候の特性を十分に表現することができません(図1左は全球の気候モデルでしばしば採用される約200kmのメッシュ、図1右は20kmのメッシュの北海道の地形)。北海道の地域気候予測を行う場合には、全球モデルなどから得られる北海道周辺の広域の気象データ(気温、風速、気圧など)と図1右のような詳細な地形データを条件として与え、より高分解の領域気象モデルを用いて対象領域の気象を再度計算し直します(この方法は力学的ダウンスケールと呼ばれます)(注1)。
図1 |
図2は、地球温暖化が今後も進行するという仮定(注2)に基づいて、上記のような方法で計算された21世紀後半の北海道の冬の予測結果です。地上気温は北海道を含むかなり広い範囲で上昇しますが、冬の道内では特に平野部など標高の低い地域で気温の上昇が急激であることが示されています。これは、図2左で示した積雪被覆率の変化と良く対応しています。山岳に比べて相対的に気温の高い平野部では、降雪量が減少することで、初雪の遅れや融雪の早期化が予想され、その結果、標高の低い地域ほど冬に地表面が雪で覆われている期間が短くなると考えられます。地面は積雪面に比べて日射をよく吸収する(太陽光の反射が小さい)ため、雪に覆われる期間が短くなると、地面で吸収される日射のエネルギーが増加します。その結果、平野部で気温の上昇が強まっています。また、オホーツク海での強い気温上昇は海氷の変化が関係していると考えられます。
ただし、降雪量や海氷の変動は複雑なプロセスが関係しているため、図2で示した数値はまだ多くの誤差を含んでいます。今後、予測精度の向上のための検証や、大気と陸・雪との相互作用についての研究が求められます。
図2 |
この内容に関連した結果は
Matsumura, S., and T. Sato, 2011: Snow/Ice and Cloud Responses to Future Climate Change around Hokkaido. SOLA, 7, 205-208, doi:10.2151/sola.2011-052.
に掲載されています。
注1: 本研究では米国で開発されたWRF(http://www.wrf-model.org/index.php)という領域気象モデルを使用しています。全球の気候予測には、東京大学気候システム研究センター、国立環境研究所、地球環境フロンティア研究センターを中心に日本で開発された全球気候モデル(MIROC)を使用しました。
注2: 今後の社会変化や経済成長の方向性に応じて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では排出シナリオに関する特別報告(SRES: Special Report on Emission Scenarios)の中で、将来の温室効果ガスの排出見通しを作成しています。その中で、本研究ではA1Bという排出シナリオに基づいた予測実験を行っています。A1Bは将来的に経済成長が続き、国際的な地域間の格差が小さくなる、という社会を想定したシナリオです。このシナリオを使用した全球モデルの予測では、1980年〜1999年を基準とした2090年〜2099年の年平均地上気温(全球平均値)の差は1.7〜4.4℃と見積もられています。今回使用したMIROCモデル(MIROC-medres)では、同期間の気温差は約3.3℃となっています。