地球流体力学

空気や水は流れるものです。このような流れるものを、気体・液体の区別なく、流体といい、その力学を調べる学問を流体力学といいます。気流や海流を理解する上での基礎はこの流体力学ですが、大気海洋の大規模な流れは、我々が日常経験する身の回りの空気や水の流れとは一見大きく異なります。例えば、天気図を見ると、春と秋なら移動性高気圧というものが見えます。この高気圧に伴う流れは良く見ると時計回りに高圧部を回っているのが分かります。しかし、我々の身の回りでは、コップの水をかき回せば分かるように回転する流れの中心は必ず低圧になります。   この違いの原因は、地球が自転していること、換言すれば、地球が巨大な渦であることによります(巨大な渦の中で回転が遅いところが実は高気圧なのです)。また、地図帳を見ると大洋の西の端に黒潮などの強い流れが集中しているのが分かります。この現象には地球が自転していることに加え、地球が丸いことも重要です。このように、大気海洋の流れを考えるためには、自転する球面上の成層流体(密度が層をなしている流体)の力学を理解することが必要です。そして、このような特徴を持つ流体の力学を体系づける学問分野を地球流体力学(もしくは惑星流体力学)といいます。

本コースでの研究

本コースでは、多くの地球流体力学的な研究がなされています。大気海洋には様々な力学現象が存在しますが、そのような現象を、エッセンスのみを抽出したシンプルな世界で捉え直すことにより、回転球面上の成層流体のより一般的な性質に迫ろうとしています。

 
 

傾圧不安定波動の数値シミュレ-ション: 左図は、日々の高低気圧の実体である大規模大気波動を、理想的な条件下で計算したもの。図は下から、地表の風と気圧、地面付近の気温、対流圏界面付近の渦の様子を表している。 大気の傾圧不安定波は熱帯と極の間の強い温度差を作ろうとする放射-対流活動の非断熱強制に抗して、気温の南北勾配をある上限に保とうと働いているが、中緯度大気の平衡化のメカニズムにはまだまだ未解明な部分が残されている。また、海洋にも同様の不安定が存在し、100kmスケールの強い渦を産み出している。そのような渦は海洋中の熱・物質・運動量輸送において重要な役割を果たしていると考えられている。


 
波による平均流加速: 右図は、斜面上に波動が入射したときの流れ(ベクトル)と圧力(等値線)の水平分布を 異なる2つの時刻について図示したもの。波による流れは時間とともに振動して一定 の向きを持たないのに対し(2つの図の下方)、それが斜面上(図の上方)に入射した ときには時間に依らず一定な西向きの流れを生じる。これは、この波が西向き 運動量を持っていることによる。波が運動量を運ぶことにより、波の生成域か ら遠いところにも流れを形成することが可能となる。この図は、海洋の中緯度 ジェットに伴う再循環流の形成を念頭においたものであるが、波の運動量 の概念は、波と流れの相互作用を考える際の基礎であり、大気における成層圏 突然昇温や熱帯成層圏の準2年振動等の力学も説明する。