2012年度松野記念修士論文賞 |
受賞者 新井 徹
- 受賞論文「花粉センサを利用した雲粒子ゾンデの開発」
- 選考理由
気象、気候における雲の役割を定量的に理解するためには、雲粒子
の数密度、粒径分布、形状、雲水量などの微物理量の測定が重要で
ある。これまでにも、航空機やラジオゾンデに搭載する機器や地
上・衛星搭載リモートセンシング機器など、様々な測器が開発・利
用されてきた。これらのうち、ゾンデ観測は雲微物理量の鉛直分布
をin situ("その場")測定できる手法として大変有用である。
しかし、現存のゾンデ搭載機器は高価であるなどの理由により観測
数は限定的であった。新井君は、メーカーにより大量生産されてい
る花粉センサ(レーザーダイオードからの直線偏光の散乱を検知)
を改良する事で、従来よりもはるかに安価なゾンデ搭載機器の開発
を目指した。具体的には、(1)実験室内で微小水滴を生成する装
置と、顕微鏡画像を解析するソフトウェアを自作し、水滴に対する
センサ出力を調べ、(2)低温科学研究所の低温実験室にて氷晶を
生成する装置を自作し、氷晶や氷晶核に対する出力を調べ、(3)
中山峠と日勝峠にて霧の観測を行い、現実の雲粒子に対する出力を
調べ、最後に、(4)上記の実験結果を考慮しゾンデ用に改良を施
したセンサをラジオゾンデと接続して、日本とインドネシアにおい
て合計5回の飛揚試験をおこなった。その結果、様々な課題も浮き
彫りにはなったが、雲粒子の有無および相の判別がおこなえ、上層
雲については妥当なオーダーの数密度値を与えるゾンデ搭載雲粒子
センサが完成した。自身で様々な実験や観測を企画・実施し、飛揚
試験にまで至り良好な結果を得たことで、今後の気象学・気候学の
進展に貢献しうる測器の開発に目処をつけたことは非常に高く評価
される。従って、本論文は松野賞に値すると判断された。
北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース