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第 397 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 1月 16日(木) 午前 9:30 - 11:00
Date : Thu., 16 Jan. 9:30 - 11:00
場所 :低温科学研究所 3階 講堂
Place:Institute of Low Temperature Science, 3F, Auditorium
発表者: 中田 英太朗(大気海洋物理学・気候力学コース/ D1)
Speaker: Nakada, Eitaro (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/ D1)
題目:北西太平洋における熱帯低気圧の通過に伴う海洋熱吸収過程の解明に向けた水温偏差の長期的な解析
Title: Long-term water temperature anomalies induced by tropical cyclones in the western North Pacific: Preliminary analysis towards an understanding of ocean heat uptake
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北西太平洋における熱帯低気圧の通過に伴う海洋熱吸収過程の解明に向けた水温偏差の長期的な解析
Long-term water temperature anomalies induced by tropical cyclones in the western North Pacific: Preliminary analysis towards an understanding of ocean heat uptake
発表要旨:
熱帯低気圧は主に夏の海上で発生・発達する。熱帯低気圧に伴う強風により海洋が かき混ぜられることで、通過域の海洋表層では負、亜表層では正の水温偏差が生じる 場合がある。表層の冷水偏差は海面フラックスにより数週間から1ヶ月程度で解消 される一方、亜表層の暖水偏差は冷水偏差よりも長期間海洋内部に留まると考えられる。 このことから、熱帯低気圧は海洋熱吸収に寄与するという仮説が提唱され、数値モデル や観測データにより熱吸収量が推定されている。しかしながら、それらの推定には いくつかの問題があると考えられる。特に、亜表層の暖水偏差は、その一部が冬季の 混合層の発達により混合層へ取り込まれることでわずかしか海洋内部に留まらない 可能性があるが、混合層に取り込まれる量がどの程度かは十分明らかになっていない。 また、この亜表層の暖水の冬季混合層への取り込みは、表層の貯熱量を増加させ 海面水温を上昇させることを示唆する。つまり、熱帯低気圧によって生じた亜表層の 暖水偏差は、冬季の混合層への暖水の取り込みを通じて海面に再出現し、同時に、 海洋の熱吸収量を変化させ気候に影響している可能性があるが、その実態の理解には 至っていない。この実態の解明には、両方のプロセスを意識した研究が必要である。 そこで本研究では、最初のステップとして、夏季の熱帯低気圧通過に伴う亜表層の 暖水偏差が冬季の海面水温に表れるかどうかを観測的に明らかにすることを目的とした。 海面水温についての観測的研究では衛星観測に基づく海面水温プロダクトの使用が 一般的であるが、そのようなプロダクトは現在数多く存在し、本研究で重要となる 熱帯低気圧に対する海面水温応答が各プロダクトでどの程度表現されているかは不明 である。よって、本研究ではまずそれを調べるために、熱帯低気圧通過時における 各プロダクトと現場観測データの比較を行なった。2007年9月1日から2021年12月31日 の期間における355事例の熱帯低気圧通過時における各プロダクトの現場観測データに 対するバイアスは、その時空間変動がプロダクト間で異なり、熱帯低気圧通過1日後の 通過域において平均的にプロダクト間で 0.1–0.6 ℃程度の差があることがわかった。 熱帯低気圧通過に伴う海面水温の低下は多数事例の平均で約1 ℃であるため、 このプロダクト間の差は無視できない。 熱帯低気圧通過時のバイアスが時空間的に一定に近いプロダクトを使用して、 熱帯低気圧通過により生じた海面水温偏差の時間変化を、1988年から2022年における 892事例の熱帯低気圧に対するコンポジット解析により調べたところ、通過後約100日後 に通過域の北西に+0.1 ℃程度の正の海面水温偏差が見られた。この偏差は特に、 10月に移動速度の速い熱帯低気圧が通過することで海面水温が大きく低下した事例の コンポジット解析結果において顕著 (+0.3 ℃) であった。この結果は、熱帯低気圧 通過に伴う亜表層の暖水偏差が冬季に海洋表層に再出現している可能性を示唆する。
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