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第269回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 5月 14日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 2階 D201

発表者:佐藤 健(低温科学研究所/博士研究員 )
Tatsuru Sato (Institute of Low Temperature Science/PD)
題名:氷期最盛期の南極氷床変動
The ice sheet evolution in the glacial maximum conditions

発表者: 豊田 威信 (低温科学研究所/助教)
Takenobu Toyota (Institute of Low Temperature Science/Associate Professor)
題名: 季節海氷域の氷盤分布の形成過程について
On the formation process of floe size distribution in the seasonal ice zone

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氷期最盛期の南極氷床変動 (佐藤健 Tatsuru Sato) 発表要旨:

氷床の変動は時間スケールの大きな現象であるが、昨今の温暖化や過去の氷期間氷期サ イクルの中で北半球や南極の氷床は大きくその形状を変化させてきた。近年の観測研究 から、南極においては棚氷底面での融解によって質量を損失していることが分かってい る。棚氷自体は減少しても海水準に影響はないが、氷床の動力学によってそれに応答し て内陸からの氷の流れが加速したり、接地線が変動して内陸氷床の体積が減少する。海 水準予測の国際プロジェクト(SeaRISE)における氷床モデルによる南極氷床変動実験では 、今後数百年の海水準予測において南極では棚氷融解の不確定性が海水準予測の不確定 性の大きな原因とされてた。  氷床の変動はその内部の温度に履歴に依存するので、過去の氷期からの氷床変動を考 慮する必要がある。この影響を調べるために、筆者らが開発している氷床モデルSICOPOL ISを用いて研究を行っている。今回は特に現在と大きく気候の異なる氷期最盛期の氷床 変動について発表する。実験のために、10万年のspin-upを行った。この際の気候条件に は氷コアによる気温変動記録、海底コアによる海水準変動を与えた。また、氷床体積に 伴う南極大陸のアイソススタシーと地殻温度はモデルの中で計算している。その後、 海洋モデルによる棚氷の融解量を与えて氷床の変動を調べた。棚氷の融解量を SeaRISE の設定と同様にした場合と比べると、最終氷期の棚氷融解量を導入した場合には氷 床は後退する。特に西南極のアムンゼン海、ベーリングハウゼン海周辺では氷床が融解 して棚氷に変化するなど氷床の面積そのものが減少する結果となった。これは大陸棚近 辺及び外洋での高い融解量により、氷床そのものが維持できなくなるためであると考え られる。東南極においても氷床体積の減少は見られるが、西南極に比べて氷の供給が多 いために、氷床体積は減少しても面積においては大きな影響はなかった。

On the formation process of floe size distribution in the seasonal ice zone (豊田 威信 Takenobu Toyota) 発表要旨:

季節海氷域は無数の様々な形状を持つ氷盤から成っており、その変動を正しく理解す るためには個々の氷盤はどのような分布特性を持つのかを明らかにする必要があるが 、今でも重要な課題である。氷盤分布は特に融解期の氷縁域において重要な意味を持 つ。氷縁域では波による破砕作用が有効に働き数多くの小さな氷盤が生み出されて融 解過程を促進する。従って、氷縁域で波—海氷間相互作用によりどのような氷盤分布 が形成されるのかは季節海氷域の後退速度を予測する上で大変重要な情報と考えられ る。これまでオホーツク海や南極海における氷盤分布の解析から、氷縁域における氷 盤分布は自己相似性があること、数十mを境として分布特性が変わることなどの特徴 が明らかになってきた。こういった背景を踏まえて、2012年9月〜11月にオーストラリ ア船を用いて東南極氷縁域における波のエネルギー伝搬特性と氷盤の大きさ分布を同 時に計測する観測がSea Ice Physics and Ecosystem Experiment 2 (SIPEX2)航海の一 環として計画された。ただし天候等の事情により氷盤分布の計測は氷縁域では実現で きず、海氷内部領域でヘリコプターを用いて実施された。そこで、波の影響が少ない 内部領域における氷盤分布特性を調べることも波—海氷間の直接的な相互作用を理解 する上で有用と考え、今回は内部領域における氷盤分布の特徴を調べることとした。 比較的小さな氷盤はヘリ搭載ビデオ画像、比較的大きな氷盤は衛星画像(MODIS)を用 いて解析した。その結果、両スケールで定常的な自己相似性の特徴が見出せたものの 分布特性は大きく異なり、形成過程の違いが示唆された。特に小さな氷盤は氷盤間の 衝突による破砕が重要と考えられ、明瞭な2つのレジームは見られなかった。これら の結果を基に氷盤分布の形成過程について推論を試みる。 Seasonal ice zone is composed of numerous ice floes with various sizes. Floe size distribution (FSD) in the marginal ice zone (MIZ) plays an important role in determining the retreating rate of sea ice extent in melting season. To understand the wave - ice interaction and then the formation process of FSD in MIZ, we planned to conduct the concurrent measurements of FSD and wave activities off East Antarctica during the Sea Ice Physics and Ecosystem Experiment 2 (SIPEX2) in September to November 2012 for the first time. There, FSD was measured by a heli-borne video camera, while the wave activities were monitored by deploying five vertical accelerators in MIZ. While the wave activity measurements were successful to some extent, unfortunately the measurement of FSD could be achieved only in the two interior ice regions about 200 km away from the ice edge due to the bad weather conditions. Therefore in this study we include satellite MODIS images (horizontal resolution: 250 m, wide-swath coverage but cloud-affected) to examine the evolution of FSD with time in the interior ice regions for relatively large floes. Through image processing analysis, the quantitative properties of FSD will be shown and the role of MIZ in the ice extent retreat will be discussed.

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連絡先

豊田 威信 (Takenobu Toyota)
mail-to: toyota@lowtem.hokudai.ac.jp