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第 233回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 10月 18日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂

発表者: 佐伯 立(DC3)
\\Ryu Saiki (DC3)
題名: 海氷と内部波の'共鳴'によるアイスバンド形成機構
\\A Mechanism of ice-band formation by the resonance between sea-ice and internal wave

発表者: 青木 茂(准教授)
\\Shigeru Aoki (Associate Professor)
題名: オーストラリア南極海盆における塩分の時間的変化について
\\On the temporal variability of salinity in the Australia-Antarctic Basin

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海氷と内部波の'共鳴'によるアイスバンド形成機構 \\A Mechanism of ice-band formation by the resonance between sea-ice and internal wave \\(佐伯 立 \\Ryu Saiki)発表要旨 :

アイスバンドとは, 海氷域の氷縁付近で氷盤が集まって組織化した縞模様の ことである. アイスバンドの幅の典型的なものは1-10kmで, 南極周辺ではバン ド構造が一定間隔のスケールを伴って100km以上連なっている様子も観測されて いる.そのときバンドの長軸が風向に対して傾いている特徴がある(Ishida and Ohshima, 2009).  これまでにもその形成メカニズムについて, 風波によるラディエーションス トレスや氷縁で励起される内部波の寄与が示唆されてきた. しかしこれまでに アイスバンドがなぜ, 規則的なバンド間隔を持ち得るのか, どうしてバンドの 発達に好ましい風向きが存在し得るのかといった疑問に明確な回答を示されて こなかった.  本研究では, Muench et al.(1983)と同じく内部波によるアイスバンド形成に ついて注目した. ただし, Muench et al.(1983)に書かれている海氷と内部波の 共鳴とは位相速度と群速度が同じ非常に稀なケースを指しており, 海氷の漂流 速度と内部波の位相速度の一致が一時的に励起した内部波の挙動を可視化する 可能性はあっても海氷域の広い範囲に規則的なパターンを形成することはない. しかしながら, 本研究で新しく提示する理論ではもはや位相速度と群速度の 一致する必要がないため, ごく一般的な現象であるとともに, アイスバンド間 隔が一定に定まる共鳴現象であり海氷域に風が吹き続ける限りその相互作用に よってバンド構造と直下の鉛直流は発達し続けることが分かった. すなわち, アイスバンドの間隔とは海氷漂流速度と内部波の分散関係が交わる1点に対応 した波数によって選択されることが明らかになった. この共鳴現象は3次方程式で表される共鳴波動の分散関係を導出した後, 摂動 展開したO(1)の解から説明することが可能である. さらに, 数値モデル(Fujisaki and Oey, 2011)を用いて漂流速度に対応する風速を変化させながらバンドの間 隔がどのように変化するか調べたところ, 理論上同じモードの波で共鳴が続け ば風速が小さいほどアイスバンドの幅は狭くなることが分かっているが風速を 小さくしたにも関わらず, アイスバンドの幅が広くなるケースが確認された. そこで傾圧位相速度の鉛直モード展開をおこなってこの事例を調べた結果, こ の風速の前後で共鳴する内部波のモードが(より位相速度の速い)第2モードから (より位相速度の遅い)第3モードに変化していたことが分かった. 従って, この 後も第3モードの内部波と共鳴を続ける限りは風速が小さいほどアイスバンドの 幅は狭くなることになる.  一方, O(ε^(1/2))の解から導かれる共鳴波動の成長率は北半球ではアイス バンドに対して風が左に傾いているとき最大になり右に傾いているとき0になる. 従ってアイスバンドが発達するのに最も好ましい風向きは前者であり, 言い換 えると海氷域に吹く風に対してアイスバンドは右に傾いた状態が発達すること になる.  今回の発表では, 上記の理論から導かれる最初に提示した疑問への回答を中 心に説明する他, 海氷と内部波のカップリングによる不安定モードの詳細, 回 転の効果の有無による共鳴波動の分散関係の変化も交えて, 数値実験によって 理論の検証をおこなった結果を発表する予定である. なお, 現実との対応につ いても紹介できる範囲で紹介するつもりでいる.

オーストラリア南極海盆における塩分の時間的変化について \\On the temporal variability of salinity in the Australia-Antarctic Basin \\(青木茂 \\Shigeru Aoki)発表要旨 :

南極海での塩分変化を明らかにすることは、地球規模水循環の変化と絡んで重 要な課題である。日本が重点的に観測してきたオーストラリア南極海盆底層お よび表層における塩分変化について調べた。1990年代と2000年代とを比較する と、南極底層水の低塩化が顕著である。この原因として、ロス海から流入する 底層水の低塩化で50%以上を説明できる可能性がある。さらに東経140度に注目 して1994年から2012年までデータを追加して底層水の塩分変化を調べたとこ ろ、低塩化トレンドが経年変動に対し卓越していることが分かった。ただし、 2012年には底層水の層厚が顕著に減少しており、メルツ氷河の剥離による影響 の可能性も考えられる。表層でも顕著な低塩化傾向がみられたが、経年変化の 割合が高い。南緯60-65度海域の低塩化は降水(雪)量の増加による寄与が顕著 である可能性がある。 こうした塩分変化の原因を考えるうえでは、降雪や海氷生産等の変化量の見積 もりが不可欠であるが、その精度の評価は困難である。それらの見積もりを検 証するうえで酸素安定同位体比が有効であると考えられ、その利用可能性につ いて検討する。

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連絡先

川島 正行 (Masayuki Kawashima)
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