****************************************************************************************************************

第 226回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 1月 19日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂

発表者: 今井 悠雅 (環境科学院/M2) \\Speaker: Yuuga Imai, Master Course
題 目: -論文紹介(Intoduction of articles)- Authors:Hiroaki Kawase, Tomonori Sato, Fujio Kimura, 2005: Title : Numerical experiments on cloud streets in the lee of island arcs during cold-air outbreaks GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, 32, L14823.1-L14823.4

発表者: 杉本 志織(地球環境科学院/PD) \\Speaker: Shiori Sugimoto, Faculty of Environmental Earth Science/PD
題 目: モンスーン期におけるチベット高原上およびその周辺域を対象とした水循環研究 Title : Process of water cycle over and around the Tibetan Plateau during monsoon season

****************************************************************************************************************

モンスーン期におけるチベット高原上およびその周辺域を対象とした水循環研究 \\Process of water cycle over and around the Tibetan Plateau during monsoon season \\(杉本 志織 \\Shiori Sugimoto)発表要旨 :

チベット高原は、アジアモンスーン循環を駆動および維持するための熱源として重要な役割を果たしており、 なかでも、高原上で発生する湿潤対流に伴った潜熱開放は、対流圏中層での直接加熱に大きく貢献している。 一方で、内陸かつ高地といった地理的要因を持つチベット高原上は、そもそも大気中水蒸気量が少ない地域 であり、そこでの降水システムの形成過程やそれを含む水循環過程に関してはまだ不明な点も多い。そこで、 1)高原外部から内部への水蒸気輸送過程 2)高原東部で頻発するメソ対流系(MCS)の形成過程 3)アジアモンスーン地域に形成される上層高気圧の東方拡大に対するMCSの役 割の3点に着目して研究を実施してきた。以下に、各研究の結果をまとめる。 1)再解析データを用いた水蒸気収支解析からは、対流圏上層にチベット高気圧 が大きく張り出す場合よりも、チ ベット高原上空をトラフが通過する際に高原南方からの水蒸気流入量が顕著に 増加することがわかった。これは、 特に、インドモンスーンのactive/break phaseと関連した対流圏下・中層での 広域循環場の違いによって説明す ることができた。NHMを用いた数値実験からは、トラフ通過時において日変化 スケールで水蒸気がヒマラヤ南面か ら高原内へ輸送される一連の輸送過程が明らかとなった。対流圏下層での西風 モンスーンに伴う多湿気団の移流 が、日中のヒマラヤ南麓での混合層発達およびヒマラヤ南斜面で強化される下層から山頂に向かう風系によって 対流圏中層に持ち上げられた。この水蒸気は、チベット高原上トラフ前面での南西風侵入と後面から吹き込む乾 燥した北西風流入と収束域の南側に相当する高原南東部に輸送された。(Sugimoto et al. 2008, JMSJ) 2)高原東部でMCSsの最大発達面積が大きく成長する場合には、対流圏上層で気候値以上にチベット高気圧の張り 出しが強かった。このとき、地表面付近では、MCS発生前日の日中に高原北西部で熱的に発生したメソαスケール の低気圧が夜間から翌日午後にかけて東進する様相、また、この低気圧に伴う循環によって侵入した北西風と高原 南部で卓越する南西風との収束域で対流活動が活発になる様相が再解析データと衛星観測赤外画像、および数値実 験によって確認された。MCS形成前日までの高原北西部での顕熱フラックスを削除した感度実験では、高原北西部 での熱的低気圧発生が再現されず、翌日のメソαスケール低気圧に伴う下層収束が弱かったため、MCSは発達しな かった。一方、MCS形成当日の高原東部での潜熱フラックスを削除した実験では、高原北西部から東進してきたメ ソαスケールの低気圧性循環が下層収束を引き起こしたにもかかわらず、高原東部地表面付近の相当温位を低下さ せ対流不安定を弱めたため、MCSは発生しなかった。以上より、高原東部にてMCSが大きく発達する場合には、高原  上の東西で異なる土壌水分分布に伴う地表面加熱の不均一性が、熱的に発生したメソαスケール低気圧の挙動や対 流不安定場の形成を介して、MCSの発生発達をコントロールする可能性が明らかとなった。(Sugimoto and Ueno 2010, JGR) 3)1999-2008年の10年間を対象とし、アジアモンスーン地域で形成されたMCSの分布を調べた。雲面積が最大に達し たMCSの分布は不均一で、120,000km2以上に成長したMCSの発生率はベンガル湾上、ベトナム北部沿岸地域、チベッ ト高原周辺において高く、25%を越えた。この3地域に注目して、大きく発達したMCS(LMCS)と上層高気圧との関 係について調べた。チベット高原東部で形成されたLMCSのみ、200hPa面におけるジオポテンシャル高度の顕著な増加 と対流圏中上層の昇温に貢献することがわかった。同時に、30-35°Nに沿った積雲対流活発帯(ZACC)が中国中東 部に形成された。ZACCの分布はLMCSと強く関連していた。対流圏下層ではLMCSに伴う低気圧性循環の強化によって 四川盆地北東部の内陸へ湿潤空気が輸送され、結果としてZACCは北方へ蛇行した。ZACCはLMCS形成後数日間維持さ れ、上層高気圧のさらなる東方拡大と、陸面湿潤領域の東方伝播を引き起こした。(Sugimoto and Ueno, JMSJ)

-----
連絡先

豊田 威信
mail-to: toyota@lowtem.hokudai.ac.jp