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第 195 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 7月 16日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂 Auditorium, Institute of Low

発表者:久保川 陽呂鎮 \\Hiroyasu Kubokawa (地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース D3 \\Course in atmosphere-ocean climate dynamics DC3)
題 目:全球・非静力学大気モデルを用いた熱帯対流圏界面領域の解析 \\Analysis of the tropical tropopause layer using the Nonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Model (NICAM)

発表者:中村 知裕 \\Tomohiro Nakamura (低温科学研究所 環オホーツク観測研究センター (講師)\\Pan-Okhotsk Research Center, Institute of Low Temperature Science, (lecturer))
題 目:凸凹な海底での散乱における内部波の振動数変化 \\Scattering of internal waves with frequency change over rough topography

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(久保川 陽呂鎮 \\Hiroyasu Kubokawa) 発表要旨 :

  
 熱帯対流圏界面領域 (TTL: Tropical Tropopause Layer)は、対流圏の空気が成  
 層圏に入る前に通過する領域である。成層圏オゾンに影響を与える水蒸気混合  
 比値はTTL内の力学場や輸送場により大きく規定されている。 
 本研究では、これまで地球シミュレーター上で動く全球非静力学大気モデル 
 (Nonhydrostaic ICosahedral Atmospheric Model, NICAM)を使用して、水惑星 
 条件下におけるTTLの力学を支配するプロセスを調べてきた (現在投 
 稿中)。10 km以下のスケールの対流雲を再現できるこの実験データにおいて、 
 個々の対流雲は圏界面付近の気温変動に大きな影響を与えておらず、気温変動、 
 水蒸気収支に支配的であったプロセスは大規模積雲群と結合した、圏界面付近 
 の赤道ケルビン波であった。これらの結果は個々の対流雲よりも、対流雲に励 
 起された圏界面付近の波動の重要性を示している。しかし、これは水惑星条件 
 下における結果であり、対流活動がより活発になると考えられる陸地を含んだ 
 場合、同様な結果が得られるとは限らない。そこで、本研究では新たに陸地を 
 含んだ実験結果の解析を始めた。解析はまだ初期段階であるが、次のような結 
 果を得ている。背の高い雲は、南アフリカ、南アメリカ、西 
 部太平洋で主に観測され、大陸上の雲は特定のローカルタイムに依存して、成 
 層圏へとオーバーシュートしていた。MJO (Madden-Julian Oscillation)が西部 
 太平洋を通過した時期に、水平スケール1,000 km程度の雲がインドネシア海洋 
 大陸の周辺で観測されており、これらの雲は成層圏へとオーバーシューティン 
 グしていた。これらの雲とMJOとのつながりはまだわかっていないが、熱帯の 
 上下対流結合を考える際には、面白い結果と考えられる。 
  
 近年、80年、90年代に盛んだった対流雲による水蒸気収支への影響を考える 
 研究が再燃しつつある。ここで、今一度、この分野の研究の歴史の流れを正確 
 に捉えておくことは、今後の研究の方針を決める際においても重要だと考えら 
 れる。本発表では、対流活動に注目しつつ、TTL水蒸気収支に関する歴史をレ 
 ビューすることで、NICAMを扱う本研究の位置付けを先ず話したい。その後、 
 水惑星、陸地あり実験の解析結果も示す予定である。 
  

凸凹な海底での散乱における内部波の振動数変化 \\Scattering of internal waves with frequency change over rough topography (中村 知裕 \\Tomohiro Nakamura) 発表要旨 :

  
 海洋内における鉛直混合(正確には等密度面を横切る混合)は、熱塩循環 
 ひいては物質循環や気候の形成に重要な役割を果たしている。この鉛直混合 
 は主に内部波(内部重力波および内部慣性重力波)を介して引き起こされ 
 ている。内部波が鉛直混合を引き起こすに至る主なメカニズムは幾つかある 
 が、その内の一つに内部波の海底における反射・散乱がある。 
  海底における反射・散乱は波数空間でのエネルギー輸送を通して、海底 
 近くで強い鉛直混合を引き起こす。過去の研究によると、滑らかな海底に 
 おける反射の場合、波数の斜面方向成分(3次元では斜面上の成分)が保存 
 する。それに対して海底が凸凹な場合、斜面方向の波数が 入射波の波数に 
 地形の波数を足し引きしたものを波数として持つ`散乱'波が励起される。 
  従来、こうした内部波の反射・散乱においては、振動数が保存すると考え 
 られてきた。しかしながら、ここではこれが常に成り立つわけではないこと 
 を示す。基本的原理は風下波(あるいは山岳は)の生成と同様のドップラー 
 ・シフトである。入・反射波の流れによる流体粒子の行程が地形のスケール 
 と同程度以上ならば、ドップラー・シフトが有意な大きさとなる。このため 
 散乱波の振動数が入射波の振動数と一致せず、振動数空間においてもエネル 
 ギー輸送が生じることになる。言い換えると、従来の研究は無限小振幅の 
 入射波を対象としており、本当の意味で粗な海底地形を扱っていなかった。 
 そこで、内部波の振動数空間における散乱について、その記述に適当な 
 支配方程式をスケーリングによって導き、その解析解を簡単な例について 
 示し、解の主な性質と考えられる影響について考察する。 
  
  

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堀之内 武 @北海道大学 地球環境科学研究院
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