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第 185 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 10月 16日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂
発表者:豊田 威信(水・物質循環部門 大気海洋相互作用 助教)
題 目:L-band SARを用いた季節海氷域の氷厚分布推定について
発表者:三寺 史夫(環オホーツク観測研究センター 教授)
題 目:オホーツク海の熱塩循環の数値実験
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L-band SARを用いた季節海氷域の氷厚分布推定について-(豊田 威信) 発表要旨 :
現在においても季節海氷域の氷厚分布をグローバルスケールで見積もることは 困難でありかつ重要な課題の一つである。従来、衛星から海氷の氷厚分布を 見積もるために様々な試みがなされてきた。その結果、多年氷や薄氷に関しては ある程度目処が立てられたものの、複雑な様相を持つ季節海氷域内の氷厚分布は 未だ有効な手段は模索中という状況にある。この課題に関して、L-band SARを用いて 表面の凹凸の度合いを抽出することの有効性を検証観測実験からある程度確認 できたので結果を紹介したい。 季節海氷域における氷厚発達は力学的なrafting/ridging過程が本質であるため、 変形過程に伴う表面の凹凸の度合いが氷厚分布の良い指標となることが想定される。 このような表面の凹凸を衛星から捉えるには、特にその凹凸のスケールに近い波長 (23.6cm)を持つL−bandのSARが有効と考えられる。この仮説を実証するために、 2005年2月にオホーツク海南部でJAXA/NICTによる航空機搭載Pi-SAR観測(L-band; 分解能3m)、2008年2月に再び同じ海域でALOS衛星のPALSAR(L-band;分解能100m)と 同期して巡視船「そうや」を用いた表面凹凸計測と氷厚計測を行った。その結果、 確かにL-band SARの後方散乱係数、表面凹凸の度合い、氷厚の間には良い相関関係が あることが見出された。これは、表面凹凸の分布の情報をSARデータは良く捉えており、 氷厚分布は表面凹凸分布と密接に関連しているためと考えられ、L-band SARが季節 海氷域の氷厚分布推定に有用であることがある程度確かめられた。 Although it is known that satellite data are useful for obtaining ice thickness distribution for perennial sea ice or in stable thin sea ice areas, it is still an unresolved issue for the seasonal sea ice zone. In this study, we approach the problem of ice thickness retrieval by using L-band SAR. In the SIZ, ice thickness growth is closely related to the ridging activity and therefore surface roughness is expected to be correlated with ice thickness. L-band SAR is suitable for detecting such surface roughness, and therefore is expected to be a good tool for obtaining thickness distribution. To verify this idea, we conducted the measurements of ice thickness and surface roughness with an icebreaker, coordinated with airborne L-band SAR observations in February 2005 and ALOS/PALSAR orbit in February 2008 in the southern Sea of Okhotsk. The surface elevation was estimated by representing the ship's or helicopter's motion with a low-pass filter. Backscattering coefficients correlated well with ice thickness and surface roughness, defined by standard deviation of surface elevation. This result sheds light on the possibility of determining ice thickness distribution in the SIZ.
オホーツク海の熱塩循環の数値実験-(三寺 史夫) 発表要旨 :
オホーツク海では、シベリアからの寒気により北西陸棚域のポリニヤで大量の海氷が形成されおり、 それにともなって低温高塩分水も大量に作られている。これが高密度陸棚水(Dense Shelf Water; DSW)と呼ばれるもので あり、オホ-ツク海中層を経由して最終的には北太平洋中層水の起源となる。 一方、オホーツク海内においては、千島列島沿い強い潮汐混合が、河川流出水等で低塩化している表層 に塩分を供給している。その塩分はオホーツク海の表層循環に乗ることによって北方へ移流され、北西 陸棚域DSW形成域に達する。このように、北西陸棚域におけるDSW形成→中層における南下→千島列島 周辺の潮汐混合による湧昇→表層循環による北方への輸送、が一連のシステムとなって、オホーツク海 の熱塩循環を形成しているものと考えられている。 本研究はそのような熱塩循環の3次元構造を海洋海氷結合モデルで再現し、変動要因を調べたもので ある。20年間スピンアップしてほぼ定常状態を得た後、潮汐混合、風、気温、河川水を変化させて さらに20年間積分し、最後の1年間を解析した。特に注目したのは風の効果である。風の強化が表層 北向きの塩分輸送を増やしポリニヤへの塩分フラックスを増加させたため、DSWの高塩分化がおこり 最終的に中層の低温化をもたらした。このように、オホーツク海の熱塩循環は風と強く結合している ことが見出されたが、それらを簡単なボックスモデルでも議論した。また、NCEPの気圧場とオホーツク 中層の水温場を比較したところ、10年周期以下の時間スケールで有意な相関が見られた。
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