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第 183 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 6月 26日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 2階 講堂
発表者:大島 和裕 (地球圏科学部門 大気海洋物理学分野 研究員)
題 目:CMIPマルチ気候モデルにおける北太平洋10年スケール変動の再現性
発表者:大島 和裕 (地球圏科学部門 大気海洋物理学分野 研究員)
題 目:アムール川河川流量の季節変化・年々変動と大気循環および水蒸気フラックスの関係
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CMIPマルチ気候モデルにおける北太平洋10年スケール変動の再現性 (大島 和裕) 発表要旨 :
地球温暖化研究において,気候モデルにおける中緯度大気海洋系10年スケール変動の 再現性を評価することは,人為起源変化と長期自然変動を識別するために重要であ る。北太平洋の海面水温変動に見られる主要な長期変動である北太平洋10年スケール 変動(PDO)の再現性を調べた。 PDOのメカニズムに関してはまだ明らかになっていないものの,観測データや気候モ デルを用いた先行研究から幾つかの説が挙げられており,有力な一つとしてENSOに励 起される大気のテレコネクションパターンによる影響が指摘されている。 そこで本研究では,PDOがCMIP3マルチ気候モデルの20世紀再現実験におけるPDOの再 現性を明らかにし,その再現性をDecadal-ENSOとの関連づけて調べることを目的とす る。またモデル間での再現性の違いについて検討する。 解析には24のCMIP3気候モデルにおける20世紀再現実験のデータを用いた。北太平洋中 緯度海域と熱帯太平洋域で領域平均したSST偏差をそれぞれPDO index,Decadal-ENSO indexと定義して,この2つのindexを用いて再現性の評価を行った。 PDO indexに対するSST偏差の回帰係数分布について北太平洋におけるモデルと観測 (HadISST)の結果を比べると,標準偏差は観測値の0.5から1.5倍の幅を持ち,観測 とモデルの空間相関係数は0.6から0.8と高い正相関を示した(1つのモデルを除き)。 このことから多くのモデルで観測と一致した空間構造を持つPDOが再現出来ているこ とが分かった。 北太平洋におけるPDOとDecadal-ENSOに伴うSST偏差の空間構造の再現性を比較する と,Decadal-ENSOに伴うSST偏差の再現性が良いモデルほど,PDOに伴うSST偏差も観 測と合うことが分かった。またDecadal-ENSOに伴う大気応答を調べると,再現性の 良いモデルでは観測と一致した大気応答の特徴を示すことが確認できた。モデルに よる大気応答の違いについては今後更に調べる必要がある。
アムール川河川流量の季節変化・年々変動と大気循環および水蒸気フラックスの関係 (大島 和裕) 発表要旨 :
アムール川は河川流量の季節変化に2つのピークが見られる北ユーラシアで唯一の河 川である。ひとつは春の6月にピークが現れ,もうひとつは秋の9月に現れる。春のピ ークは春の気温上昇に伴って雪が融け流量が増えるため,一方で秋のピークは夏に降 水として大気から供給される多くの水が広い流域を流れて2ヶ月ほどかけて河口に達 するために秋に流量が増えるからであろうと考えられる。 この考えを検証するために,河川流量と再解析データ(ERA40, NCEP2, JRA25, ERA15) から見積もられる正味降水量(P-E)を比較した。河川流量を秋と冬に分けて比べると, 秋の河川流量は夏のP-Eと良く対応し,春の河川流量は冬のP-Eとの対応が良いことが 分かった。定量的にも良く合っている。また雪融けや河川の凍結,融解のタイミング を調べると,河川流量の季節変化に見られる2つのピークが前述の通り説明できるこ とが認できた。 大気場や水蒸気輸送との関連を調べたところ,秋の河川流量を決める夏のP-Eはモンス ーンに伴って南西から定常的に運ばれる水蒸気と西風に伴う内陸からの水蒸気輸送が もたらし,春の河川流量を決める冬のP-Eは擾乱(storm track)に伴う南からの水蒸 気輸送と冬型の気圧配置に伴う輸送がもたらすことが分かった。年々変動には,冬は 季節風とAOの変動,夏はモンスーンなどが関わっている。 以上のTachibana, Oshima and Ogi (2008, JGR)の研究結果について発表する。
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