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第 176 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ
日 時: 11月 15日(木) 午前 09:30
場 所: 環境科学院 2階 講堂
発表者:二橋 創平 (低温科学研究所/南極大学 博士研究員)
題 目:オホーツク海沿岸ポリニヤ域における海氷生産量とその季節内変動
発表者:宇田川 佑介 (地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース DC1)
題 目:南半球大気大循環の変調に関連した海氷変動パターンの変化
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オホーツク海沿岸ポリニヤ域における海氷生産量とその季節内変動 (二橋 創平) 発表要旨 :
オホーツク海の北部沿岸には、シベリアからの寒気の吹き出しにより、 ポリニヤ(卓越する沖向きの風によって海氷が運び去られると同時に、 すぐに結氷することで維持される岸に沿った薄氷域) が幾つか形成される。 沿岸ポリニヤでは盛んに海氷が生成されており、結氷の際に排出される 高密度水は北太平洋中層水へのventilationの起源と考えられている。 しかしながらこれらの海域は現場観測が極めて困難であり、海氷生産量に 関しては、間接的に推定した研究はあるものの、定量的には明らかに なっていない。海氷は厚くなるに従って急激に断熱効果が強くなるため、 海氷生産量を定量的に見積もるためには、単にポリニヤの場所だけでなく、 その氷厚を知ることが非常に重要になる。また、ポリニヤは時間的・空間的 に大きく変動するので、できる限り高解像度のデータで調べる必要がある。 そこで本研究では、天気や時間に左右されないマイクロ波放射計による データのなかで最も解像度が高いAQUA/AMSR-Eの輝度温度からポリニヤ域と そこでの氷厚を推定する新しいアルゴリズムを用いて、熱収支計算から 海氷生産量を見積もった。 冬期間で累積した海氷生産量のマッピングから、北西陸棚域で最も盛んに 海氷が生成されることが示された。同様な分布はこれまでの研究からも 得られているが、本研究ではそれらより最大で倍近い値が見積もられた。 これは本研究が解像度の良い(従来の倍)AMSR-Eデータを用いたことと、 これまでの研究がポリニヤ域の氷厚を一定の値(例えば10cm)と仮定して 扱っているためである。海氷生産量が最大の北西陸棚域で詳しく解析を 行ったところ、海氷生産量の季節内変動はポリニヤ域の面積で主に決まって いることが示された。北西陸棚域の沿岸ポリニヤは、冬期に卓越する沖向き 成分の強い北風(寒極であるシベリアから非常に冷たい空気を運ぶ)で 維持されるが、気圧パターンが変化し風の沖向き成分が少なくなると、 ポリニヤの面積が小さくなることが示された。
南半球大気大循環の変調に関連した海氷変動パターンの変化 (宇田川 佑介) 発表要旨 :
南半球における大気場と海氷場の年々変動メカニズムを解明することを目的に研 究を行った。 人工衛星の観測により得られた海氷密接度場に対し主成分分析を用いて解析を 行ったところ、1984年〜1994年にかけてのみ海氷変動パターンが南極大陸の周りを 連続的に東進していること、他の期間では不規則に変動していることがわかった。 また、海氷変動を駆動する南極域大気場についても主成分分析、相関回帰解析等 を行った。 その結果、海氷が不規則に変動している期間では南極振動と呼ばれる南半球規模 の大気大循環現象が卓越していること、東進している期間では地理的に位相が 固定され周期4年の定在波パターンが卓越したことで海氷変動パターンが東進して いたことがわかった。 以上の結果より、南半球大気大循環(南極振動)の変調が海氷の年々変動メカニ ズムの要因であることが解明された。
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