2003年度沼口修士論文賞 |
授賞者「三角 和弘」
- 受賞論文「白亜紀における海洋深層循環と物質循環のモデリング」
- 選考理由
今から約1億年前の白亜紀では、低緯度で高温高塩分の深層水が形成されていた
と地質学的証拠より考えられている。また、海洋深層循環が停滞し、深層海水中
の溶存酸素がなくなっていた時期があることも知られている(海洋無酸素事変)。
一方、海洋物理学的視点からは、低緯度で深層水が形成が難しいことや深層循環
が数万年程度以上の長期間停滞することは難しいと考えられている。
三角君は、簡単な物質循環モデルを海洋大循環モデル(COCO)に組み込み、数多
くの試行錯誤を経て、そのモデルと大気大循環モデル(CCSR/NIES)を組み合わせ
た一連の数値実験を行い、白亜紀の気候状態を再現した。その結果、低緯度で持
続する深層水形成は難しいこと、数千年程度の繰り返し起こる海洋循環停滞時の
溶存酸素や栄養塩分布が、現在のコンベア様式の物質循環を仮定するとあたかも
低緯度で深層水形成が起こっていたように解釈出来る地質学的証拠が得られるこ
と、また、その際に海洋深層水が無酸素状態になることなどを示した。彼の研究
テーマは壮大なもので、まだ道半ばではあるものの、地質学と海洋物理学・化学
などを融合した学問分野への第1歩として、本論文は沼口賞を受賞するに値する
と判断された。
北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻