1999度松野記念修士論文賞 |
授賞者 「稲津 將」
- 受賞論文「東西非一様な亜熱帯ジェットとストームトラックの形成に関する数値的研究」
- 選考理由
北半球冬季、上部対流圏に存在する亜熱帯ジェットは東アジアと北米東部に極大を持ち、
東西非一様な分布をする。また中緯度で低気圧活動が盛んなストームトラックはジェット
コアの下流域の極側に局在化している。
本論文では、大気大循環モデルを用いて海陸分布、海面水温分布、山岳を理想化した実験
を系統的に行い、モデル中での大気循環を解析し、東西非一様な亜熱帯ジェットとストー
ムトラックの形成要因を調べた。
これまでの研究では、この東西非一様なジェットの血形成には大規模山岳と加熱分布が
重要であるとされていたが、加熱分布の中身については明確でなく海陸のコントラストが
着目されてきた。本論文は、ジェットコアは山岳の下流域と熱帯の暖水域の北に形成され、
暖水域の北にできるジェットコアの形成には、熱帯・中緯度の非断熱MMM加熱に起因する
非地衡風に伴う東西流の加速減速の効果が重要であることを明確に示した。また海陸分布
は副次的効果しかもたないことを明らかにした。ストームトラックは等圧面上の解析では
必ずしもジェットコアまたはトラフの下流側に存在するとは限らないが、等温位面上の解
析ではコアの下流側に存在することを示した。
ジェットの形成に関してはすでにG.R.L.に印刷されている。本論文の系統的な多数の数
値実験、優れた解析及び物理的考察は著者の卓抜した才能を示しており今後の研究に期待
するところ大である。よって本論文を優秀な修士論文と認め、1999年度の松野記念修
士論文賞に選定する。
受賞者 「松永 壮」
- 「受賞論文大気中の水溶性有機物分析法の開発と生成変質過程の解明」
- 選考理由
有機物は大気中で光化学酸化を受け含酸素化合物に変化する。これらは水溶性であるこ
とから、凝結核として雲の形成に関与する。水溶性有機物としてシュウ酸など低分子ジカ
ルボン酸が注目されてきたが、本研究ではそれらの先駆体として、水酸基など複数の官能
基を持つ低分子カルボニルに着目しその分析法の開発を試みた。
その結果、O-ベンジルヒドロキシルオキシム/TMS誘導体化法によりGC/MSにて低分子カ
ルボニル化合物を測定する分析法を確立し、降水・雪試覧を確立し、降水・雪試料中に
glycolaldehyde(2-hydroxyethanal)など5種類の化合物を新たに検出した。これらは、大
気中ではじめて見いだされたものである。その一部は、イソプレンなど植物起源の揮発性
有機物の光化学反応により生成すると考えられる。
また、これらの濃度はシュウ酸に匹敵することも明らかにされた。本研究は、大気中に
新化合物を発見するなど大気化学研究の新たな展開につながるものであり、松野賞に値す
ると判断された。また、同君が修士課程において2論文を発表し、3報目を外国誌に投稿
したなど積極性も評価された。
北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻