1998年度松野記念修士論文賞 |
受賞者 「齊藤 香織」
- 受賞論文「熱帯気候の南北非対称性の形成に関わる大陸強制」
- 選考理由
ITCZの南北非対称性は海陸分布に原因があるとは言われてきたが、具体的にどのような分布が効いているのかについては決着がついていなかった。
齊藤さんは大気ー海洋結合モデルを用いて、特に太平洋の場合、メキシコ湾と南米大陸の非対称の影響によってペルー沖に形成される層雲が太陽放射を遮ることが主原因であること、西海岸の地形は効かない事などを明解に示した。
これまでは東岸海岸線の形が注目されてきたが、当研究ではその東にある海陸分布に注目した点が独創的であり、これを実証するのに用いた大気ー海洋結合モデルの設定も巧妙である。
また、複雑なモデルを使いこなした力量も、簡潔ながら明解な文章とともに高く評価される。
受賞者 「吉江 直樹」
- 受賞論文「Seasonal variations of primary productivity and Chl.a-specific
productivity in the western North Pacific」
- 選考理由
人工衛星による広域/同時リモートセンシング観測によって、海洋表層の生物生産量を見積もるアルゴリズムの確立が望まれている。
多くの方法が提唱されているが、それぞれに問題点を抱えている。
吉江君は、石狩湾に定点を設けて、海洋観測を精力的に行い、現場生物生産量、温度、塩分、栄養塩、クロロフィルaと植物色素、光環境などについての高精度なデータセットを得た。
そして、
(1)クロロフィルaの鉛直分布が季節変動し、それが、プランクトン種に関連していること、
(2)その分布は、冬/春型と夏/秋型の2つに分類できること、を明解に示した。
さらに、それぞれの場合について、
(3)表面水温/太陽放射から同化指数(単位クロロフィルa当たりの生産量)を見積もる関係を導き、最終的に
(4)人工衛星からのクロロフィルa、表面水温、放射の観測値から生物生産量を算出する簡便な関係式を提示した。
これにより、高緯度海域での、リモートセンシングによる生物生産研究が大きく前進することが期待できる。
観測/実験技術とデータ処理/解析の力量は高いものがある。また、
修士論文を英文で書いた意欲も評価できる。
北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻