2023年度松野記念修士論文賞 |
受賞者 大谷 若葉
- 受賞論文「西グリーンランド域の領域海洋モデル開発 ー大西洋起源水変動及び氷河融解変動の理解ー」
- 選考理由
夏季、グリーンランド氷床では表面が融解し、融解水は亀裂から氷河底面部に到達し、氷河末端部から海へと流出する。融解水は海水と比べて低密度なので、周囲の海水と混合しながら湧昇し、沖合に存在する暖かい水をフィヨルド内部に引き込み、氷の融解を加速させる。また、この湧昇流は富栄養な水塊を有光層まで運ぶことから基礎生産を活発化させ、 海による二酸化炭素吸収を促進する。グリーンランドの氷損失および縁辺海の二酸化炭素吸収の変動要因の理解/将来予測が喫緊の課題となっている。こういった背景のもと、フィヨルド内部の現場観測や数値モデル開発が多くの研究者によって進められてきたが、水平スケールの異なる外洋域の大規模な海洋循環と大陸棚上のフィヨルド地形に沿った複雑な海洋循環を観測と整合的に再現できるモデル開発は困難で、外洋域から大陸棚及びフィヨルドを繋ぐ海洋モデル研究はほとんど行われてこなかった。そこで、大谷さんは、①全球データ同化モデル(ECCO-LLC270、以下ECCOモデル)の評価を行い、西グリーンランド外洋域において、ECCOモデルは近年までの昇温傾向がよく再現できていることを示した。さらに、②海洋モデル(MITgcm)を用いて、ECCOモデルのダウンスケーリングを実施した。ダウンスケーリングモデルでは、水平解像度をECCOモデルの約15kmと比較して2-3kmと高解像度化させることができた。さらに、氷床底面部から流出する氷河融解水の湧昇過程のパラメタリゼーション(プルームモデル)を組み込み、1992年から2004年までのモデル実験を駆動した。ECCOモデルでは表現されていなかった高温の水塊のフィヨルドへの流入を再現することができた。また、高温の水塊の流入経路やその季節変動/経年変動があることが再現され、この原因は大規模循環による高温水塊の移流によるものであることを示唆した。
本研究は、データ同化モデルの評価、領域ダウンスケーリングモデル開発、モデル結果の解析を実施した優れた修士論文であると言える。特に、研究のベースとなるモデル開発の実施には、データ解析、プログラミング、など多くの作業が必須で、修論という短期間で、完成度の高い領域モデルを作り上げたことは、大谷さん自身が、この研究テーマにしっかり向き合った結果と言える。図もしっかり作り込まれており、分かりやすいことも評価される。今後、更なる高解像度化/生態系モデルの導入などを進めることで、海洋物理/海洋生態系分野の新たな研究展開も見込まれる。以上より、本論文は松野記念修士論文賞に値するものと判断された。
北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース