2014年度松野記念修士論文賞 |
受賞者 谷平 洋介
- 受賞論文「水温フロントが雲の形成に与える影響及び放射を介した海洋へのフィードバック」
- 選考理由
水温フロント近傍では静的安定度の指標となる海上気温と海面水温との差が暖水
側から冷水側へ大きく変化する.フロントを跨ぐ安定度の変化は数℃であり,多
くの場合,暖水側の負から冷水側の正へと符号を変える.さらに,安定度の変化
は海洋上の大気境界層内の気温・湿度の鉛直構造の変化を通して下層雲の特性に
も影響を与えていることが指摘されている.フロント近傍の下層雲のレジームに
関する過去の観測研究は,フロント近傍を船舶で移動しながらのラジオゾンデ観
測に基づく成果であるため,厳密には空間変化と時間変化の分離はできていなか
った.谷平君は,2012年に黒潮続流フロント近傍で実施された3隻同時の現場観
測により得られた公開済みデータに基づき,水温フロント近傍における大気境界
層内の鉛直断面を概ね6時間ごとの高頻度で解析した.時空間的に不等間隔であ
る船舶観測データを丁寧に取り扱うことで,南からの暖気移流と北からの寒気移
流のそれぞれにおいて,水温フロント近傍で変化する下層雲レジームの時間的遷
移を捉えることに成功した.また,下層雲の形成が下向き赤外放射フラックスに
及ぼす影響を,現場の放射観測,ラジオゾンデ観測,鉛直一次元広帯域放射フラ
ックス計算モデルを駆使することによって評価した.その結果,水温フロント近
傍での下層雲レジームの変化に伴う下層雲の温室効果は下層雲の日傘効果を緩和
するが,正味の放射フラックスとしては水温フロントを維持する方向に働いてい
ることを指摘した.このような水温フロントと下層雲との相互作用は黒潮続流海
域のみならず,亜熱帯循環系と亜寒帯循環系との循環境界に遍く見られる可能性
があり,中緯度の大気海洋相互作用に関する研究に対して重要な視点を提示した
ことは高く評価される.谷平君は日頃から学内のセミナーのみならず,さまざま
な研究集会に積極的に出向き,参加者と積極的に議論する姿勢を継続してきた.
このような主体的な研究姿勢が,自身の研究の考察を深め,修士論文を完成度の
高いものにした.以上の理由から,本論文を松野記念修士論文賞に値すると判断
する.
北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース