2008年度松野記念修士論文賞 |
受賞者「嶋田 宇大」
- 受賞論文「エネルギー収支と渦位から見た日本海Polar Lowの発達メカニズム」
- 選考理由
Polar lowとは、冬季、主要な傾圧帯より極側の海洋上で発生するスケール
の小さな強い低気圧のことである。この様な低気圧は北大西洋や日本海で多く
発生し、コンマ状やミニ台風のような形状をしている。Polar lowの発達メカ
ニズムについては、温帯低気圧と同じ傾圧不安定を主張する研究がある一方で、
台風と同じCISKなどのメカニズムを主張する研究もあり、体系的な理解は十分
ではない。嶋田君は、日本海で発達した3例のpolar lowについて、主にエネル
ギー収支と渦位の観点から詳細なデータ解析を行い、どのような環境場でどの
ように発達するかを調べた。その結果、polar lowは傾圧性の比較的強い環境
場で初期渦の中心から西側にかけての上層に規模の小さな高渦位アノマリーが
流入したときに急発達していることがわかった。この急発達には、凝結加熱に
よるエネルギー供給も重要な役割を果たしていた。また、上層の高渦位アノマ
リーが東へ移動するとpolar lowの発達は止まる事例があった。明瞭な前線が
解析され、傾圧的エネルギー変換が見られるものの、基本場の状況からみて
polar lowが傾圧不安定的な発達をしているとは言えなかった。このような発
達状況はpolar lowの発達メカニズムが温帯低気圧や台風とは異なることを示
唆する。嶋田君の研究は、高解像度のデータを丹念に解析し、これまでの観測
的・数値的研究と比較しながら深く考察した結果なしえたものである。これら
の研究結果は今後、数値実験やより多くのケーススタディ等で検証されるべき
ものではあるが、polar lowの研究に新たな局面を切り開くものであることは
間違いない。以上の理由により、本研究は松野賞に値するものである。
北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース