2000年度松野記念修士論文賞 |
授賞者「大畑 めぐみ」
- 受賞論文「炭酸カルシウムの溶解に注目した海洋堆積過程に関するモデリング」
- 選考理由
氷期と間氷期の大気中二酸化炭素濃度差は、炭酸カルシウムの埋没量の変動
に強く影響される。その埋没量は、海底深度や海底直上の海水中の全炭酸や全
アルカリ度濃度とともに有機物の溶解量に影響され、各海域毎に大きく異なる。
海底堆積過程のモデリングは、堆積層の概念、炭酸系の化学平衡、数値計算手
法といった幅広い知識を必要とするため、世界的にも、Archer(1991)を元に2
つのグループだけが行っている。
大畑さんは、彼のモデルの問題点を指摘し修正することにより、炭酸カルシ
ウムによる有機物の堆積物中含有率の希釈効果を表現した。さらに、炭酸カル
シウム含有率の全球分布の計算を行い、特に、太平洋赤道域などの高生物生産
海域において、観測された高い含有率の再現に成功した。
また、自分の理解したことを自分の言葉で書かれた文章は、修士論文として
高く評価される。
受賞者「川端 暁」
- 受賞論文「西部北太平洋における海洋大気エアロゾル中の低分子ジカルボン酸の
季節変化」
- 選考理由
近年、水溶性有機エアロゾルは硫酸エアロゾルと共に雲凝結核として太陽放射と気
候変動に重要な役割を果たす物質として注目されている。本論文では、小笠原諸島・
父島で4年間にわたって採取された海洋エアロゾル試料から水溶性画分を分離し、そ
こに含まれる低分子ジカルボン酸を測定し、その季節変化を明らかにした。その結果
、炭素数2から11までの20種のジカルボン酸が海洋大気中に存在すること、すべ
ての試料でシュウ酸(C2)が主成分であることが明らかとなった。更に、低分子ジカ
ルボン酸の濃度は、冬から春にかけて最大となること、夏に向かって低くなることを
明らかにした。川端さんは、自らの分析で見いだしたジカルボン酸の季節変化を、流
跡線解析やIGAC/GEIAのエミッションインベントリーを用いて解析した。その結果、
冬から春にかけて見いだされたシュウ酸などの高い濃度はアジア域からの大気輸送で
説明されること、また、そのソースは陸上植物など自然起源ではなく、化石燃料の燃
焼に由来するものであることを明らかにした。本論文の特色は、自らの化学分析の結
果から出発し、それを数値解析や数値モデルなど物理的手法を用いて解釈していった
ところにある。川端さんはこうした方法により新しい知見に到達することに成功して
おり、修士論文として高く評価できる。
北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻