空想日誌(6)ピラミッドと龍

今年の干支は龍ですが、唯一実在しない動物です。それにもかかわらず実に多くの伝承が世界各地に残っています。その理由は恐らく、それ「もどき」のものを目撃したためと思われます。空に龍の存在を想像させるものと言えば、この原稿を書いている最中にもつくばで発生し尊い人命まで奪った竜巻です。竜巻を発生させる積乱雲は豪雨、雷、突風をもたらしますので、龍の持つ力と一致します。また、ドラゴンボールも雹と考えられますし、幅100 m長さ10 km前後という細長く残された被害の後も巨大な龍蛇が通過したようにも見えます。

明治時代の民族・考古学者で、アイヌ・環オホーツク海文化の研究でも有名な鳥居龍蔵が発見した紅山文化(紀元前4700年頃から紀元前2900年頃に中国北部から内モンゴル自治区に存在した新石器時代の文化)で発掘された玉製品や、殷の甲骨文字を見ると、龍は英語の大文字のCに似た尻尾が丸まった蛇の形で表現されています。「雲(云)という文字も雲中に頭を隠した捲尾の竜の形」が基になったと言われています。

このように「龍」というのは想像上の動物ですが、日本では古代から大蛇(おろち)の信仰と結びついています。山に大蛇が棲むという伝説、あるいは山を取り囲むような大蛇という伝説は日本各地に残っています。山を囲む「大蛇もどき」の気象現象と言えば笠雲と吊るし雲(UFO雲や龍の巣とも呼ばれています)です。円錐形の孤立峰では、上空の風が強い時にこれらの雲が発生し、夏には積乱雲が発生しやすいことが知られています。従って、ピラミッドのような形をした、周囲よりも高い円錐形の山に龍蛇信仰が多いのではないでしょうか。

写真は真狩町役場に設置した我々の監視カメラで撮影した、蝦夷富士とも呼ばれている羊蹄山の山頂部にかかった笠雲の一種です。「とぐろ」で山を囲む大蛇に見えなくもありません。もう1枚の写真は同じ羊蹄山ですが、笠雲と一緒に山頂から上空に伸びる竜巻状の雲が映っています。笠雲は決して珍しい現象ではありませんが、山頂から上空に竜巻状の雲が伸びるのは大変に珍しく、まだ発生原因は明らかになっていません。早速、役場の方に羊蹄山に龍の言い伝えが無いか問い合わせたところ、「残念ながら歴史が浅くて伝説は無い」との返事でした。アイヌ伝説に出てくる龍に最も近い神は、ホヤウカムイ(翼を持った大蛇)、あるいはラプシヌプルクル(翅の生えた魔力ある神)ですが、「沼に棲み、体長数メートル程度で悪臭を放つ」そうですので、残念ながら北海道に羆はいても龍は棲んでいないようです。

次回は、「熱帯の夜」の予定です。

参考
龍の起源(荒川 紘、紀伊國屋書店)
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』http://ja.wikipedia.org/wiki/紅山文化
アイヌ民譚集 (知里 真志保 (翻訳)、岩波文庫)
字統(白川 静、平凡社)

2012年5月8日