****************************************************************************************************************

第 251 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2017/10/18(水) 15:00 -- 16:00
場 所:環境科学院 D101

発表者:松下 侑未(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:アンサンブル気候予測データを用いた日本周辺における台風通過頻度の将来変化に関する要因解析

****************************************************************************************************************

アンサンブル気候予測データを用いた日本周辺における台風通過頻度の将来変化に関する要因解析(松下 侑未) 発表要旨 :

台風は接近や上陸に伴って様々な自然災害を引き起こす。そのため、各地域にお
ける台風の通過頻度や強度の変動は社会の関心が高い。台風通過頻度の変動は台
風の発生数、発生分布、および発生後の経路のそれぞれが変化することに起因し
ている。Ho et al. (2004)は、フィリピン周辺や南シナ海において、1980~2001
年における台風の通過頻度は1951~79年より増加し、東シナ海や東部南シナ海に
おいては1980~2001年における台風の通過頻度が減少したことを示した。また、
Wu et al. (2005)は、1965~2003年において、東シナ海で台風の通過頻度の増加
と、南シナ海で減少を示した。しかし、日本に接近または上陸する台風の通過頻
度変動についてこれらの視点から研究したものは少なく、解析結果の妥当性や不
確実性を評価するためには大量の台風データが必要である。そこで、本研究では
大規模アンサンブル気候予測データを使用し、発生域変化と経路変化の視点から
日本に接近または上陸する台風の通過頻度の将来変化に対する要因解析を行う。

 本研究では、気候変動リスク情報創生プログラムによって作成された地球温暖
化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF; Mizuta et al.,
2016)のうち、60kmAGCMによる出力データを使用した。さらに、d4PDFにおける
熱帯低気圧の情報として、Yoshida et al. (2017)が検出した北西太平洋におけ
るトラッキングデータを使用した。ここでは過去実験(1951年から2010年までの
60年分)と4℃上昇実験(2051年から2110年までに相当する60年分)を解析し
た。過去実験で再現された熱帯低気圧の検証のため、気象庁のベストトラックデ
ータ(1951年から2016年までの66年分)も用いている。本研究では、日本周辺を
①北日本、②東日本、③西日本、④沖縄・奄美の4つのエリアに分割し、それぞれの
エリアを通過する熱帯低気圧の通過頻度について、Yokoi and Takayabu (2013)
が提案した発生地別台風統計法にならって、発生頻度分布の影響、代表的経路の
影響に分けて比較した。

 まず、d4PDFにおける台風の再現性を評価するため、台風の発生頻度変動や発
生および通過頻度分布をベストトラックデータとd4PDFの過去実験で比較した。
その結果、発生頻度変動や発生頻度分布の再現性は高いが、通過頻度分布におい
て日本周辺はやや過小評価することが分かった。次に、代表的経路の目安とし
て、5°×5°格子で発生した台風が各4つのエリアを通過する確率をみると、西日本
エリアではベストトラックによる各格子における台風の通過確率分布は、九州西
部(30°N,120-130°E付近)や南東部(25°N,135°E付近)で最高値をとり、北西太
平洋南東方向にのびていた。d4PDFの過去実験においても、概ねベストトラック
と同様の傾向が見られ、将来気候では、通過確率が25°N,115~140°E付近、0~
10°N,160°E~160°W付近において増加、5~30°N,125~180°付近において減少が見
られた。このことから、将来西日本エリアを通過する台風は、日本の近くで発生
するものや日付変更線付近で発生するものの確率が増加するため、発生から上陸
までの時間が短縮される可能性や、寿命が長く猛烈な台風となる可能性が示唆さ
れる。

-----
連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
三村 慧 Mimura Satoru
E-mail:s-mimura@ees.hokudai.ac.jp