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第 157 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2004年 10月25日(月) 午後 16:30 - 17:30
場 所:地球環境科学研究科 講堂

発表者:久保田 剛 (地球環境科学研究科 気候モデリング講座 修士2年)
題 目:シベリア3大河川における河川流量の経年変動の様相

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シベリア3大河川における河川流量の経年変動の様相 (久保田 剛) 発表要旨 :

 北極海の体積は全世界の海洋体積のわずか1%ほどであるが、そこに流れ込む 
 河川流量は全世界のそれの約11%をも占めており、北極海はさながら広大な河 
 口域である。このことが北極海の表層に薄く広がる低塩分水の成因のひとつで、 
 この低塩分水は北極海の海氷生成に有利な環境をもたらすのみならず、グリー 
 ンランド沖から北大西洋に流れ出して、高温高塩分の北大西洋海流と混合する 
 ことで北大西洋深層水をつくり出す一因になる。もしも北極海に流れ込む河川 
 流量が何らかの原因で増加すれば、海氷生成には有利に、北大西洋深層水の生 
 成にはそれを抑制する方向に働くであろう(Rahmstorf et al.(1999))。 
  
 そんな中、Peterson et al.(2002)は、地球温暖化と同調するように、シベリ 
 アから北極海に流れ込む河川流量が増加していることを報告したが、その原因 
 については詳しく触れられていなかった。そもそもこの地域についての研究は 
 最近ようやく活発になってきたばかりで、将来予測の意味でも、まずはこの地 
 域の河川流量がどのように規定されるかを理解することが大事だと思われる。 
  
 本研究では、ob,yenisey,lenaのシベリアの3大河川(この3本で北極海に流れ込 
 む陸水の4割を占める)を対象に、幅1000kmスケールの広大な河川流域システム 
 について大まかな理解を試みた。降水から蒸発を引いた量の水が地面に残り、 
 川になって流れていくであろうことは想像しやすい。その考えにもとづき、こ 
 のような広域水収支解析にとって最もオ−ソドックスだとされる「大気−河川 
 水収支法」を用いた。シベリアでは冬は極寒のため川も地面も凍るので、河川 
 流出はごく少ない。冬の積雪は翌春にようやく流れ出す。このような季節性を 
 考慮しつつ経年変動を求めると、河川流量と流域に収束してくる水蒸気量の値 
 を比較すると、良い同時相関が得られ、量的にも一致することからこの手法の 
 妥当性を確認できた。lenaにのみ河川流量が大気より1年遅れるragも存在した。 
 少なくとも最近20年間では河川流量や大気中の水蒸気収束量の増加トレンドは 
 見られなかった。 
  
 各季節毎での変動も見るために、この手法を季節的にも用いた。lenaでは冬も 
 夏も独立に良い相関が見つかるのに対し、obでは1年のサイクルの中でようや 
 く収支がつりあうような季節特性があった。yeniseyの成績は全般的に悪かっ 
 た。どうしてそうなるのかの仮説なども含め、今回の発表ではこれらの詳細を 
 紹介する。 

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連絡先

三角 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学 / 気候モデリング講座
mail-to:misumi@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2298