2005年度沼口修士論文賞 |
授賞者「南雲 信宏」
- 受賞論文「降雪粒子の融解過程」
- 選考理由
世界中のほとんどの雨は、雪が融けてできたものであるが、その中間状態である「みぞれ」については、現在の雲モデルではまだパラメタリゼーションができていない。また、雪が融けることによって、大気の上空には厚さが数百mの冷たい安定層が形成されるため、大気の成層と流れにも大きな影響を与えている。さらに、いわゆる「濡れ雪」は、通信障害、交通障害、送電線の倒壊、生態系に大きな影響を与えるため、「雨雪判別」は極めて重要な情報である。しかしながら、地上で「みぞれ」を観測する機会は極めて限られており、形が複雑でかつ時間変化が早いため、これらの粒子の物理的特性を測定することは非常に困難であった。そこで南雲君は、粒子の形と落下速度を同時に測定することができる2D-Video-Distrometer(以後、2DVD)を用いて辛抱強く観測し、数多くの観測事例を得ることに成功した。
彼は先ず、複雑な形を定量化するために、画像データから雪片やみぞれの形の定義、粒径を求めるアルゴリズム開発を行った。更に、2DVDと電子天秤による粒子の重量の測定結果から、粒子の密度を求める方法も開発した。その結果、雪からみぞれを経て雨に変化する間の、形、粒径、落下速度、密度の時間変化を調べることを可能とし、融解中も形が変形しない「あられ」の粒径-落下速度の関係は、過去の半理論式と良くあっていたが、「融解雪片」の落下速度は計算結果とは一致しないことを見出した。このことは、「融解雪片」は空気から最大抵抗を受けるように変形しながら落下したためであり、その落下速度が、密度ではなく、融解量にほぼ比例することを見出し、気温と落下速度の簡単な経験式を作成した。
彼はまた、雨滴が落下中に再凍結する現象である「凍雨」についても観測、解析を行った。その結果、気温がプラスであっても、昇華蒸発によって雨滴は十分0℃以下となりえることを計算から示すことによって、この凍雨現象を説明した。さらに、明らかに落下速度の違う2つの粒子群が同時に存在することを見出した。地上での粒子の形と内部構造の観測を基に、落下速度の速いほぼ透明で密度が高い粒子は、相対的に気温が高い条件でゆっくり凍結し、落下速度の遅い気泡が多く含まれた密度が小さい粒子は、相対的に気温が低い条件下で急速に凍結してできた凍雨であることを示唆した。
このように、南雲君は、長期にわたる地道な観測から複雑な「みぞれ」の物理的特徴量を定式化することに成功した。また、「みぞれ」以上に観測機会の少ない「凍雨」の観測に成功し、新たな観測事実を見出した。これらの研究成果が高く評価され、沼口修士論文賞を受賞するに値すると判断された。
北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻