2009年度松野記念修士論文賞 |
受賞者「坂崎 貴俊」
- 受賞論文「WINDASおよびMUレーダで明らかになった日本上空の対流圏〜
下部成層圏の風の日変動」
- 選考理由
受賞対象となった論文は、“上空大気の風の日変動”という身近な
ようでいて観測技術の制限から必ずしも実態が明らかでなかった
現象を、データ解析により徹底的に調べ上げたものである。気象庁
のウィンドプロファイラネットワーク(WINDAS、全国31地点)
および京都大学所有・滋賀県信楽町のMUレーダの観測データを中心に、
気象庁の地表気象観測ネットワークAMeDASのデータ、気象庁メソ解析
データ(MANAL)、および5種の全球再解析データも用いて、日本付近
の対流圏・下部成層圏の水平風の一日周期成分と半日周期成分の季節性
・高度依存性を明らかにした上で、各現象について力学的考察をおこ
なっている。大気境界層内全域で卓越する局地循環、中・上層大気で
卓越するが場所によっては地表付近まで影響をおよぼす大気潮汐、
対流圏界面付近を中心として対流圏中層にまで影響をおよぼす中間
規模波の、季節・高度によるふるまいの様子を明瞭に整理することに
成功している。さらに、対流圏下層に“一日周期東進渦”が存在する
ことを発見し、これが傾圧場における下部境界に捕捉されたedge waves
と理解できることを示した。この東進渦は日本付近の天気になんらかの
役割を果たしているのだろうか。今後の研究が期待される。研究内容の
質と量、論文の記述の明解さ、論旨の説得力、大気潮汐や中間規模波
および大気レーダに関するレビューが充実していること、今後の展望が
明確なことなど、ここ数年の修士論文では傑出している。加えて、
本研究テーマは、坂崎君自身が大学生時代に藻岩山や手稲山で独自に
おこなった気象観測で見出した気圧場の半日周期現象に端を発し、
AMeDASデータにて日本の主要な平野における地表風の日変動を統計的に
解析した卒業論文・国際ジャーナル論文を経て、このレベルにまで結実
させたものであり、その力量と情熱も非常に高く評価できる。以上の
理由により、本論文は松野記念修士論文賞に値するものである。
北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース