2007年度松野記念修士論文賞 |
受賞者「松田 淳二」
- 受賞論文「オホーツク海の熱塩循環」
- 選考理由
海氷が生成されるときには、氷にとって不純物である塩分が排出されるため、低
温(結氷温度)で高塩分の重い水が形成される。オホーツク海では、シベリアか
らの寒気により、北西陸棚域のポリニヤで大量の海氷が形成され、同時に低温高
塩分水も大量に作られている。これが高密度陸棚水と呼ばれるもので、陸棚域か
ら流出して東樺太海流の中層に合流し、最終的には北太平洋に広がって北太平洋
中層水と呼ばれる海水となる。松田君は、このような高密度水の形成過程、およ
びそれに伴うオホーツク海の3次元的循環過程を、数値実験を用いて研究した。
その結果、従来から注目されてきた千島列島沿いの潮汐混合に加え、風が変化す
ることによっても中層水温が変化することを明らかにした。これは風が強くなる
ことによって風成循環が強化され表層北向きの塩分輸送が増大し、海氷生成がな
される北西陸棚域の塩分強化をもたらしたためである。これが、陸棚水を高塩分
化し、より深くまでまで冷たい海水を潜り込ませていた。このように、オホーツ
ク海の熱塩循環は風成循環と強く結合していることが明らかとなった。また、気
温を変化させたり、アムール川を取り除いた実験もおこなった。気温を上下させ
た実験では、海氷の張り具合に大きな変化が生じ、気温上昇によって中層水温の
効率的な温暖化が生ずることも示唆された。
松田君の研究は、まず何よりオホーツク海の中層循環(あるいはその水温・塩
分構造)を初めて再現した、という点で画期的である。さらにそれを基盤とし、
風と中層循環という一見関係のなさそうな現象に注目して中層循環変動の新たな
メカニズムを見出している。論文としては若干淡白という指摘もあったが、見出
された結果は大変重要なものであり今後のオホーツク海研究の指標となるべき研
究と言える。以上の理由により、本研究は松野賞に十分値するものである。
北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース