外部資金

平成27-30年度 文部科学省科学研究費補助金 基盤研究B
北極海の海氷変動の鍵を握るアラスカ北部沿岸域での海氷・海洋変動の実態解明
研究代表者: 深町 康
研究分担者:大島 慶一郎・伊東 素代(海洋研究開発機構)

1. 研究の目的
本研究では、近年急速に海氷の減少が進んでいる北極海の中でも特に顕著に減少が見られる太平洋側海域において、大きな鍵となっていると考えられている太平洋から流入する海水の実態を明らかにするため、この海水の主要な経路であるアラスカ北部の沿岸域(ポリニヤと呼ばれる海氷生産が盛んな薄氷域でもある)において、係留系と船舶による現場観測を実施し、海氷と海洋のデータを取得する。これらのデータに基づいて、この海域における海氷変動、沿岸流による熱と塩分の輸送量の変動、および海氷・海洋の変動の関係について明らかにすることを目的とする。



平成23-25年度 文部科学省科学研究費補助金 基盤研究B
ケープダンレー沖は南極底層水の主要な生成域か?
研究代表者: 深町 康
研究分担者:青木 茂・松村 義正

1. 研究の目的
過去の船舶観測データによる海水特性の解析や衛星データによる海氷生産量の マッピングから、南極海インド洋セクターのケープダンレー沖は南極底層水の 生成域である可能性が示唆されていたが、我々が最近実施した観測によって、 確かに南極底層水がローカルに生成されていることが明らかになった。しかし、 この海域における南極底層水の生成量は把握されていないため、その量が南極 海全体の南極底層水のどの程度を占めているかについては明らかになっていな い。そこで、本研究では、係留観測によって得られるデータを用いて、海氷生 産量とそれに伴って生成される南極底層水の流量の見積りを行い、この海域が 主要な南極底層水の生成域であるかどうかを明らかにすることを目的とする。

2. 平成24年度研究実績
(1) 2008-09年の係留観測データに基づく成果をNature Geoscience誌に発表
2008-09年に実施した係留観測による海洋底層のデータを衛星観測による海氷デー タ、船舶・バイオロギングによる海洋データと合わせて、ケープダンレー沖の 海域では高い海氷生産によって南極底層水が生成され、その流出量は南極海全 体の生成量の6-13 %を占めることを明らかにした。この成果は、Nature Geoscicence誌の2013年3月号にArticleとして掲載され、同誌の News and Views (Meredith, 2013) およびオンラインの Nature News でも紹介された。

本論文発表時の北海道大学によるプレスリリース (March 4, 2013)

ナショナルジオグラフィック ニュース (March 6, 2013)

(2) 日本南極地域観測隊に参加しての係留観測の実施
2012年11月から2013年3月にかけて日本南極地域観測隊に参加し(深町・松村)、 砕氷艦「しらせ」からケープダンレーポリニヤ内の陸棚域に超音波氷厚計を含 む係留系3系を設置した。これらの係留系は2014年2月に回収予定である。

3. 平成25年度研究実績
(1) 2008-09年の観測データに基づく論文を投稿
ケープダンレー沖の海域での南極底層水の生成と変動について現実的な数値モデルを用いて再現することに成功し、2008-09年の係留観測による結果 (Ohshima, Fukamachi, Williams et al., 2013) と同様にこの海域での生成量が南極海全体の約10%であることを示した。この結果はJournal of Physical Oceanographyに投稿中である (Nakayama, Ohshima, Matsumura, Fukamachi and Hasumi) 。

(2) 日本南極地域観測隊による係留系の回収
日本南極地域観測隊の「しらせ」によってケープダンレー沖の陸棚域に2013年2月に設置した3地点の係留系の回収を、「しらせ」によって2014年2月に実施した。しかしながら、今シーズンは海氷域が例年になく大きく拡がっており、3地点のうちの1地点については回収作業を実施することが出来なかった。この残された係留系について、今シーズンの「しらせ」の航海で回収予定である。

4. 本研究課題に関連する主な研究業績
   
[1] Ohshima, K. I.*, Y. Fukamachi*, G. D. Williams*, S. Nihashi, F. Roquet, Y. Kitade, T. Tamura, D. Hirano, L. Herraiz-Borreguero, I. Field, M. Hindell, S. Aoki, and M. Wakatsuchi (2013): Antarctic Bottom Water production by intense sea-ice formation in the Cape Darnley polynya, Nature Geoscience, 6, 235-240. [*These authors contributed equally to this work. ]



平成23-25年度 文部科学省科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究
超音波ドップラー流速計を用いた海氷の厚さの計測手法の開発
研究代表者: 深町 康
研究分担者:大島 慶一郎

1. 研究の目的
本研究の目的は、専用の高価な測器以外では連続的にモニターすることが難し かった海氷の厚さを、広く普及している典型的な海洋測器である超音波ドップ ラー流速計(Acoustic Doppler Current Profiler) を用いて計測する手法を開 発することである。

2. 平成24年度研究実績
(1) 2009-10年に取得した超音波氷厚計データの処理
2009-10年にアラスカ州北部バロー沖合いのチャクチ海で実施した係留観測データの処理を進め、超音波氷厚計による海氷厚データを高精度で導出した。このデータは、超音波ドップラー流速計によって別途見積もられる海氷厚データの比較対象となるものである。

(2) アラスカ州バロー沖合いでの係留観測の継続実施
2012年7-8月に前年に設置した2系の係留系を回収し、更に同様の係留系2系を再設置した。なお、再設置した係留系は2013年7-8月に回収予定である。また、回収した係留測器については、全て良好なデータが取得出来ている。(係留系の設置点については、Alaska Ocean Observing Systemの"Sea-ice thickness measurement off Barrow"の項を参照。)

3. 平成25年度研究実績
(1) これまでに取得した超音波氷厚計データの処理
昨年度に処理を実施した2009-10年のデータと同様に、2010-11年の超音波氷厚計データについても処理を実施し、海氷厚を導出した。

(2) これまでに取得したデータに基づく論文の投稿
超音波氷厚計と超音波ドップラー流速計だけでなく、同時に計測されている水温・塩分のデータも用いた海氷の生成過程に関する研究成果をAnnals of Glaciologyに投稿した (Ito, Ohshima, Fukamachi et al.) 。

海氷の厚さと漂流速度について、係留観測とヘリコプターによって牽引するセンサーや地上のレーダーなどの上空からの観測との比較研究の成果についてもAnnals of Glaciologyに投稿した (Mahoney, Eicken, Fukamachi, Ohshima et al.) 。

(3) アラスカ州バロー沖合いでの係留観測の継続実施
2013年7-8月に前年に設置した2系の係留系のうちの1系を回収したが、もう1系については回収に至らなかった。更に、前年と同様の係留系2系を再設置した。現在設置されている3系については2014年7-8月に回収予定である。(係留系の設置点については、Alaska Ocean Observing Systemの"Sea-ice thickness measurement off Barrow"の項を参照。)

4. 本研究課題に関連する研究業績
   
[1] Petrich, C., H. Eicken, J. Zhang, J. Krieger, Y. Fukamachi, and K. I. Ohshima (2012): Coastal landfast sea ice and break-up in northern Alaska: Key processes and seasonal prediction, Journal of Geophysical Research, 117, C02003, doi:10.1029/2011JC007339.



平成20-22年度 文部科学省科学研究費補助金 基盤研究C
南極海沿岸域における海氷生産量とそれに伴う南極底層水流量の直接的評価
研究代表者: 深町 康

1. 研究の目的
船舶観測データによる水塊特性の解析や衛星データによる海氷生産量のマッピン グから、南極海インド洋セクターのアメリー棚氷北西沖は、南極底層水の生成域 である可能性が示唆されている。この海域において、係留測器によって得られる 現場観測データを用いて、海氷生産量とそれに伴って生成される高塩分陸棚水お よび南極底層水の流量の見積りを行い、この海域が主要な南極底層水の生成域で あるかどうかを明らかにする。


2. 平成20年度研究実績
(1) アメリー棚氷北西沖での係留系の回収および回収航海中の観測
アメリー棚氷北西沖の陸棚斜面域に2008年2月に設置した係留系の回収を、 2009 年1月に東京海洋大学の練習船「海鷹丸」で実施し、良好なデータを取得 することに成功した。回収航海中には、係留系で取得される時系列データを補 完するために、係留点の周辺海域でCTD (伝導度水温水深計)とLADCP(垂下 式ADCP)による観測についても実施した。これらのデータの初期的な解析結果 からは、この海域では南極底層水が生成されているという衛星データによる海氷生 産量のマッピング結果に基づく我々の仮説を支持する結果が得られている。こ の観測の概要については、以下の学会発表を行った。

Ohshima, K. I., T. Tamura, Y. Fukamachi, and S. Aoki: Sea ice production in the polynya and the associated bottom water formation off the Cape Darnley, East Antarctica. 9th International Conference on Southern Hemisphere Meteorology and Oceanography, Melbourne Convention Center, Melbourne, Australia, 10 February 2009. Abstract (pdf)

(2) ケルゲレン海台東側斜面域での北上流量の見積り
2003-05年にかけて、オーストラリア・南極海盆の西側境界であるケルゲレン海 台東側斜面域において、南極底層水を含む深層西岸境界流を捉えるために日豪共 同で行われた係留観測データの解析を行い、南極底層水の北上流量を見積った。 見積られた北上流量には大きな時間的な変動が存在し、その平均値はこれまでの 船舶観測で得られた結果よりも少なくなっていた。この結果は、南極底層水の流 量の正確な見積りのためには、時系列データを取得する係留観測が不可欠である ことを示している。この結果をまとめて、以下の学会発表を行った。

Fukamachi, Y., S. Aoki, J. A. Church, S. R. Rintoul, M. Rosenberg, and M. Wakatsuchi: Mooring measurement of the deep western boundary current over the eastern flank of the Kerguelen Plateau in the Indian Sector of the Antarctic, 9th International Conference of the Southern Hemisphere Meteorology and Oceanography, Melbourne Convention Center, Melbourne, Australia, 11 February 2009. Abstract (pdf)

以下のFukamachi et al. (2010) 発表時の北海道大学によるプレスリリース


3. 本研究課題に関連する研究業績
   
[3] Fukamachi, Y., S. R. Rintoul, J. A. Church, S. Aoki, S. Sokolov, M. A. Rosenberg, and M. Wakatsuchi (2010): Strong export of Antarctic Bottom Water east of the Kerguelen plateau, Nature Geoscience, 3, 327-331.
   
[2] Aoki, S., N. Fujii, S. Ushio, Y. Yoshikawa, S. Watanabe, G. Mizuta, Y. Fukamachi, and M. Wakatsuchi (2008): Deep western boundary current and southern frontal systems of the Antarctic Circumpolar Current southeast of the Kerguelen Plateau, Journal of Geophysical Research, 113, C08038, doi:10.1029/2007JC004627.
   
[1] Fukamachi, Y., M. Wakatsuchi, K. Taira, S. Kitagawa, S. Ushio, A. Takahashi, K. Oikawa, T. Furukawa, H. Yoritaka, M. Fukuchi, and T. Yamanouchi (2000): Seasonal variability of bottom-water properties off Adelie Land, Antarctica, Journal of Geophysical Research, 105(C3), 6531-6540.

Last updated: April 23, 2016