海洋物質循環と古海洋
Marine Biogeochemical Cycles and Paleoceanography

山中康裕

天気, 43, 476-482


1. 気候システムと古気候・古海洋 / 2. 海洋循環・海洋生物生産と堆積環境 / 3. 氷期における海洋物質循環 / 4. 暖かな気候における海洋循環 / 5. おわりに / 参考文献

 1. 気候システムと古気候・古海洋

過去の地球表層環境(古気候・古海洋)をいわゆる地質学的記録より知ろう とすれば, 予めどのような環境でどのような記録が残るのかという知識が 必要になる. すなわち, 過去の地球表層環境を理解することは, より広い 気候システムの振舞いを理解することに他ならない. 気象学・海洋物理学 で主に扱う風速・流速・温度・降水・塩分などの物理場が直接的に記録さ れるのではなく, 氷床・湖底・海底コアなどに含まれる花粉・有孔虫・同 位体・有機物などが直接的な証拠として残る. 物質循環は, それ自身気候 システムの一部として重要であるが, 物理場と地質学的記録を結び付ける ものなので, その研究は気候力学と古気候学・古海洋学との橋渡しを行な う点で重要なものである. ここでは, 海洋物質循環と堆積環境との関係に ついて解説し, 海底コアやモデルによる研究などから明らかになった過去 の海洋循環の例として, 氷期・間氷期サイクルおよび中生代における海洋 循環像について簡単に述べることにする.


2. 海洋循環・海洋生物生産と堆積環境

現在の海洋で生物生産を制限しているものは, 海洋生物の元素組成(P:N:C =1:16:106)と海水中での組成(P:N:C=1:15:1017)から分かるように, リン 酸塩・硝酸塩・ケイ酸塩などの栄養塩と呼ばれるものであり, その濃度は, 生物活動により深層が高く表層でほとんど0に近くなっている. 従って, 生物生産の地域分布は深層からの栄養塩供給によってほぼ決まり, 赤道湧 昇・ペルー沖などの沿岸湧昇や高緯度の混合層が深くなる地域において生 物生産が高くなっている. 生物活動に伴って, 動植物プランクトンの生物 組織(paticulate organic matter, POM)や殻(方解石, オパール)などは, 沈降粒子(いわゆるマリン・スノー)として中層や深層へ運ばれる.

一方, 全海洋の温度躍層以深を占める底層水・深層水は, 現在, グリーン ランド沖および南極大陸周辺の極めて限られた地域で生成されている. こ の底層水・深層水は, 太平洋などの他の地域で温められつつ湧昇し, 中層 や表層を通じてまた生成域へ戻るという全海洋規模の熱塩循環を形成して いる. 北大西洋深層水(North Atlantic Deep Water, NADW)は深層を大西 洋から南極海を経てインド洋や太平洋へ流れていくうちに, 表層から深層 へ降ってきた沈降粒子を徐々に溶かし込んでゆき, 栄養塩に富む水へと変 質してゆく. Broeckerは, 深層循環が上から沈降粒子を溶かし太平洋へと 運んでゆき, 表層で戻るときに沈降粒子としてこぼれてゆく様子をコンベ ヤー・ベルトにたとえ, 全海洋規模の熱塩循環をコンベヤー・ベルトと呼 んでいる(Broecker and Peng, 1982). 従って, 深層水中の栄養塩濃度は 大西洋に比べ太平洋で高くなっており, 特に沈降粒子中のオパールは生物 組織に比べ深いところで溶けるため, 深層水中のケイ酸塩濃度は, リン酸 塩や硝酸塩に比べ, 大西洋で非常に低く表層水の濃度に近くなっている. そのために, 植物プランクトンのうちオパールの殻を持つ珪藻などは太平 洋・南大洋に生息している. このように, 海洋循環のもとで, 生物生産分 布と栄養塩分布はお互いに影響しながら決まる.


第1図 現在の海底堆積物の主な成分についての分布. (Lisitzin,1972; 西村,1983 より).

外洋の海底堆積物は, 陸起源の砕屑性物質 (detritus)・生物起源(プラン クトンの殻)の方解石(calcite)・オパール(opal)の3つに大きく分けられ る. 砕屑性物質は, 陸に近い所に多く堆積し, その量は陸上の乾燥や風速 によって決まる. 方解石・オパールは, 生物生産の高いところで堆積しや すい. 深い所では方解石の溶解が大きいため(溶解度積の圧力依存性), 方 解石は浅いところに堆積する. 堆積物中のオパールは, どの深さでも徐々 に溶け出すため, 生物生産が特に高いところの海底で堆積する. また, 生 物組織の量は, 沈降粒子中では方解石やオパールの量より多いが, 堆積物 中にはほとんど残らない. 第1図に現在の海底堆積物の主な成分について の分布を示す. オパールは, 生物生産が特に高い地域のうち, 太平洋赤道 域・北太平洋高緯度・南大洋で堆積しているが, 大西洋赤道域・北大西洋 高緯度では堆積していないことがわかる. これは, 先ほど述べたように現 在の深層循環のパターンによって決まっている. また, 方解石は浅いとこ ろに堆積するため中央海嶺で堆積する. 北太平洋で方解石が堆積しないの は, 北太平洋の海底が深いためもあるが, 北大西洋から流れて来る間に表 層から深層に降ってきた生物組織をよく溶かし込んでいるため, 1km程度 の比較的浅いところでも海水中のCO32-濃度が低くなっていて, 方解石が 溶けるためである. 方解石が堆積しないような深海底では, 陸起源の砕屑 性物質が赤粘土(red clay)としてごくごくゆっくりと堆積する. このよう に海洋循環は, 生物生産分布と栄養塩分布に影響を与え, さらに海底堆積 物の分布を決めていることが分かる.


第2図  海洋大循環モデルに組み込まれた簡単な生物化学過程(山中, 1994a). pCO2は二酸化炭素分圧, POMは粒子状有機物, O2は溶存酸素, PO4はリン酸塩を表す. 海洋中の二酸化炭素分圧は, 全炭酸(Total CO2)・アルカリ度・温度・塩分より 化学平衡の元で得られ, 新生産は有光層(50m)内でリン酸塩濃度と光強度の関数として求め, 大気海洋間のガス交換は二酸化炭素分圧差より与えられる. 河川流入・堆積過程は考慮していない.

海洋大循環モデルに第2図に示すような簡単な生物化学過程を組み込んだ モデルを用いた研究は, 90年代に入って行なわれている(Bacastow and Maier-Reimer, 1990; Najjar etal., 1992; Yamanaka and Tajika, 1996). この簡単な生物化学過程を組み込むことによって, 上で述べたような全海 洋規模の生物生産の水平分布, 栄養塩・溶存酸素分布・全炭酸・炭素同位 体などの3次元的な濃度分布, 大気中二酸化炭素濃度, さらに堆積物の水 平分布などを計算できるようになった.


3. 氷期における海洋物質循環

最近10年間, グリーンランドの氷床コアおよび北大西洋の海底コアより, 氷期から現在の間氷期へ遷移する際に訪れた一時的な寒冷化(新ドライア ス事件, Younger Dryas, 14C年代で約11000〜10000年前)について 議論されている(例えば, Broecker et al.,1988; Keigwin etal., 1991). 特に最近数年間, グリーンランド氷床頂上で掘削された高時間分解能の氷 床コアGISP2やGRIP(Taylor et al., 1992; GRIP members,1993)や高堆積 速度の海底コア(Broecker, 1994)によって約2000年程度の周期で温暖/寒 冷期が訪れるダンスガード-オシュガー周期(Dansgaard-Oeschger cycles) や約1万年程度の周期でローレンタイド氷床が崩壊するハインリッヒ事件 (Heinrich events; Heinrich, 1988)が知られるようになった. 特に, グ リーンランドの氷床コアに記録されている数十年というごく短い期間に温 暖・寒冷期の遷移したこと(Dansgaard et al., 1989; Lehman and Keigwin, 1992)は, NADWの生成量の強弱に伴う南北熱輸送の変化および大気循環の 変動によるものと考えられている.

モデルによる先駆的研究は, Manabe and Stouffer (1988)による大気海洋 結合大循環モデルで得られた2つの定常解(NADWが形成された場合/されな かった場合)を新ドライアス事件に当てはめた議論である. 最近では,簡略 海洋2次元モデル(Stoecker and Wright, 1991)や大気海洋結合大循環モデ ル(Manabe and Stouffer, 1995)を用いてローレンタイド氷床からの融け水 を与えたようなより具体的な状況でのNADWの振舞いが示されている. また, 最近では, 氷期における二酸化炭素濃度低下に注目し, 海洋物質循環がど のようになっているかという研究が行なわれ始めている(Heinze et al., 1991; Archer and Maier-Reimer, 1994).

最終氷期(約2万年前)には, NADWの形成が弱くなっていたことが最近の研 究で分かってきている(例えばBoyle and Keigwin, 1987). それに伴って 北大西洋で方解石の溶解の程度が変化したことも知られている(例えば Broecker, 1994). 初めに述べた言い方をすれば, 方解石の溶け方の変化 や13C・Cd/Caの変化という地質学的記録からNADWの形成が弱くなったと解 釈されている. 従って, 氷期・間氷期サイクルに伴った深層循環の変動の 記録は, 例えば, 堆積物中に北大西洋の方解石の含有率という縞々の形で 残っているということになる.


第3図  海洋生物化学大循環モデルで計算された方解石の堆積分布 (山中, 1994b).堆積している領域を塗りつぶしてある.

ここでは, 浮遊性有孔虫の酸素同位体から知られている氷期北大西洋の表 層海面塩分が現在より低かったことを利用して, 海洋生物化学大循環モデ ルで計算した結果を紹介する(山中, 1994b). 第3図に,北大西洋の表層塩 分を現在より3psu(いわゆる3‰)下げた場合の海底における方解石の堆積 分布を示す. このとき, NADWは消失し代わりにNAIW(North Atlantic Intermediate Water)の塩分極小層が拡がり, 北大西洋で方解石が堆積し なくなる. これらは, 海底コアから得られていることと調和的なものであ り, 二酸化炭素低下の1つの原因と考えられているBoyle (1988)の仮説を 定性的には支持する結果である(定量的には難しい). 但し,大西洋深層に おけるδ13Cの分布は, 現在の太平洋深層に似たものとなり, 海底コアから 得られている分布とは異なる. これは, ここで示した結果は北大西洋の表 層塩分を現在より3psu下げNADWが消失した状態であるのに対し, 現実の氷 期には, 弱いながらもNADWが生成している違いを反映していることが考え られる.



4. 暖かな気候における海洋循環


第4図  新生代始めおよび全体の大西洋の海洋循環の摸式図 (Kennett and Stott, 1990 に加筆).

オパールの堆積分布より, 約300万年前から北大西洋で深層水が形成され る現在のような深層循環になったと考えられている(Woodruff and Savin, 1989). 最近6500万年間の新生代における海洋循環は, 大陸配置と寒冷化 に伴って変遷してきた(詳しい解説は多田(1991)を参照). 新生代の始めの 時期においては, 深層水の水温が15〜18Cで表層より0〜2C高く塩分濃度も 表層より高かった(Railsback, 1990)ことなどから, 低緯度で高温高塩分 深層水(Warm Saline Deep Water, WSDW)が形成されていたことが考えられ ている(第4図). すなわち, 現在は,極域で冷却され表層水温が低くなり, 沈み込んで深層水を形成しているが, この時期には, 低緯度で多く蒸発し 表層塩分が高くなり, 沈み込んで深層水を形成したと考えられている. 前 者の場合南北温度差によって駆動され, 後者の場合南北塩分差によって駆 動されている. 古くから理論的には, このような2つのタイプの循環が考 えられ, 海洋表層塩分濃度が降水-蒸発によって決まることから, 多重解を もつなどの性質がよく知られている(Stommel, 1961). しかし, 理想化した 海陸配置のもとで大気中二酸化炭素濃度を8倍に増加させた大気海洋結合大 循環モデルの結果(Manabe and Bryan, 1985)や大気大循環モデルと海洋大 循環モデルを組み合わせた中生代の超海洋(パンタラッサ海)の実験(Kutzbach et al., 1990)では, 低緯度での沈み込みが難しいことを示している.

また,白亜紀の時代に相当する地層から黒色の有機物に富んだ薄い縞が見ら れる層(black shale)が見つかる. 当時の海底が無酸素状態になっていたと 考えられることから, 海洋無酸素事変(oceanic anoxic event)と呼ばれて いる. その成因には諸説あるが, Herbert et al.(1986)は, 堆積物を時間 高分解能(約4000年)で解析することによって, 約2万年間隔で間欠的に海洋 無酸素状態が存在すること, 海洋無酸素状態の時期と海洋生物生産が低い 時期が一致することを示した. さらに, 日射量の変動のため(いわゆるミ ランコビッチ・サイクル)海洋循環が間欠的に停滞したためと推定したが, 氷床がない時期にどのようなメカニズムで起こるのかは今後の課題とした.

ここでは, 解釈が簡単かつ長時間積分が出来るシンプルモデルをもちいて, 熱塩循環の基本的な振舞いを調べた我々の研究を紹介する(山中・阿部, 1995, Yamanaka and Abe-Ouchi, 1996). 用いた海洋循環のモデルは, 大 西洋程度の大きさの海洋を考え, 準定常地衝流近似し東西平均した流体方 程式に基づいたもので, 流速についてはコリオリ項および圧力項(と鉛直 粘性項)がバランスするものと仮定し, 温度・塩分については時間変化・ 移流・拡散項からなる基礎方程式をそのまま解くことにする(Stocker and Wright, 1991). 海面での境界条件は,南北で赤道対称なものを与える. 塩 分に関しては, 極の参照温度が0℃のとき現在の海面塩分になるような降水 ・蒸発フラックス(低緯度で蒸発大・高緯度で降水大)を与える(全ての場 合同一). 温度に関しては, 赤道で25℃, 極で0〜25℃となる海面参照水温に 緩和させる. 例えば大気中二酸化炭素濃度が高くなる時に, 大気の安定成 層及びアイスアルベドフィードバックのため, 高緯度地域の海面水温上昇 は, 赤道のものよりも大きいこと(Manabe and Bryan, 1985)などに対応さ せ, 極の海面参照水温を変化させることでケーススタディを行なう. さら に, 簡単な生物化学過程として,Yamanaka and Tajika (1996)のうちリン 酸塩・溶存酸素・14Cに関するものを組み込んだ.


第5図 極域表層水温を変化させた場合に得られた赤道沈み込み 定常循環・極沈み込み定常循環・振動循環の3つの解に 対応する深層水温および子午面流線関数(Yamanaka and Abe-Ouchi, 1996). 振動循環における深層水温は,ハッチした領域内を振動する. 流線関数の値の単位は, Sv(=106m3/s).

得られた極域表層水と深層水の水温の関係を第5図に示す. 南北温度差が 大きい場合には極で沈み込み, 深層水温は極域表層水温にほぼ一致し, 南 北温度差が小さい場合には赤道で沈み込み, 深層水温は赤道表層水温にほ ぼ一致する. その間(約15〜17℃)には両方の解が存在する領域がある. 興 味深いのは, 振動し続ける解が存在する(約9〜15℃)ことである. この解は, ごく短期間極沈み込み循環によって冷たく重たい水が深層水として供給さ れるが, すぐにごく浅い赤道沈み込み循環にとって代わられ, 深層の大部 分は停滞し表層から徐々に鉛直拡散によって温められてゆき弱い赤道沈み 込み循環が海底に達して深層水が十分に暖かくなると, 再び極で冷たく重 たい深層水が沈むようになる, といった振舞いをする. これは, 極沈み込 み循環の速度が遅くなると低緯度表層の高塩分水の移流が減るため, 極域 の塩分濃度が下がり,極域の塩分成層が強くなり, ますます循環速度が遅 くなるという, halocline catastropheと呼ばれる正のフィードバック( Bryan,1986)が知られているように, 降水・蒸発フラックスと塩分との関 係による. この振動の周期は鉛直拡散係数AHVが 0.4cm2/sの場合には約27000年になり, 0.2cm2/s の場合には約54000年になる. 鉛直拡散による時 間スケール(t = (海底の深さ)2 / AHV)で決まっている. このことは, 海 洋物理学的視点から, 深層水が鉛直拡散から決まる時間スケール以上の長 期間停滞することはありえないことを示している(徐々に上から温めてい くことなど巧妙な状況を考えても現実的な範囲では難しい). 白亜紀の無 酸素事変に限らず一般に, 地質学的証拠から深層循環が数100万年以上停 滞していたという単純な解釈がしばしばなされるが, どのような状況でそ のような地質学的証拠が記録されるかということを, 海洋物質循環の立場 から注意深く見直す必要がある.


第6図  鉛直拡散係数が0.3cm2/sのときの 深層が停滞した時期の子午面流線関数・水温・Δ14C年齢・ 溶存酸素濃度(Yamanaka and Abe-Ouchi, 1996).

深層水が停滞した時期には, 第6図に示すように, 深層水のΔ14C年齢(表 層から離れてからの時間)は, 鉛直拡散係数による交換のみになりその年 齢は約9000年となり, 海底では無酸素状態が拡がる. このとき, 深層循環 が弱いために生物生産は低くなっており, Herbert et al.(1986)と調和的 である. 深層水の溶存酸素濃度は大まかに言えば生物生産と深層循環との 強さの比になっており, 思考実験をすれば明らかだが, 深層循環が停滞し ているとき生物生産は相対的には最も強くなる. 従って, 全海洋の栄養塩 濃度が決まっている場合である上の結果は直観的に理解される. 一方, 陸 上・大陸棚からの栄養塩供給によって無酸素事変が生じるならば, 深層循 環速度には大きく依存せず, 生物生産が多いときに無酸素状態になるので, Herbert et al.(1986)とは矛盾してしまう.

海洋の境界条件として降水・蒸発フラックスを用いた場合, 熱塩循環の振 舞いは, 現実海洋よりそのフラックスに過敏であることが一般に知られて いる. 従って, この研究で得られた結果は, 大気海洋結合系でさらに注意 深く検討する必要がある. 大気大循環モデルを用いた大気中二酸化炭素濃 度を現在の100倍まで上げていった感度実験の結果では, 大気中二酸化炭 素濃度が高くなるにつれ, 大気による南北水輸送が強まることが示されて いる(Ohfuchi, 1994). このことは, 降水・蒸発フラックスを固定したも のより大気海洋結合系で, 赤道沈む込み循環がより存在しやすいことを示 唆している. 仮に, 大気海洋結合系において, ここで得られた振動解が得 られないとしても, 赤道沈む込み循環・極沈み込み循環が起こる境界領域 では, 熱塩循環の振舞いは極域の表層水温に敏感である. この境界領域に ある場合, 熱塩循環の振舞いは, 極域の表層水温の変動を通じてミランコ ビッチ・サイクルに強く影響され, ここで得られた振動解のようになるこ とが期待される. 従って, ここで得られた結果は, 暖かな気候における深 層循環の基本的な振舞いを表現していると考えられる.


5. おわりに

ここでは, 海洋物質循環を通じて, 過去の地球表層環境の一例として海洋 熱塩循環の振舞いを見てきた. このことは, 単なる過去の事実の記述に留 まらず, 熱塩循環の特性を理解してゆくことにつながる. Manabe and Stouffer (1993)が示した地球温暖化に伴う熱塩循環の振舞い(大気中二酸 化炭素濃度が現在の4倍になる場合には, NADWの生成が止まり, 現在の深 層循環と異なる状態のまま現在の状態に戻らないこと)から分かるように, 海洋物質循環および古海洋の研究は, 熱塩循環の特性の基本的な理解を通 じて, 地球温暖化問題とも結び付いている. 阿部彩子さん(東大・気候シ ステム)との議論が本講演を行なう際に非常に役に立ちました.


参考文献


トップページへ / 本ページ内容の無断転載はお控えください。 までご相談ください。
北海道大学 山中康裕