雲の科学

「雲科学」とは

雲は地球上の水循環、エネルギー循環、そして物質循環に大きな役割を果たしている。従って、雲(及び降水)をモデルの中でどれだけきちんと扱っているかによって、天気や気候予測結果が大きく変化する。例えば、近年問題となってきた温暖化や地球環境に与えるインパクトを考える際には、「厚い雲と薄い雲」、「氷雲と水雲」、「上層雲と下層雲」、「綿雲のような孤立した積雲と広い面積を持つ層雲」といった様々な雲を研究対象とする必要がある。その理由は、これらの雲が広い意味での地球環境に対して果たす役割が互いに異なっているからである。しかしながら、雲核や雲粒の取り扱い、雲の内外の流れ、雲が存在する大気条件下での放射収支の計算は現今モデルでは極めて不十分であり、気象・気候モデルでもっとも不確定性が大きい要素のひとつである。そのため、数値モデルでは「雲解像モデル」、観測技術では「衛星搭載雲レーダー」の開発が世界的に進んでいる。


もちろん雲を研究対象とするからには、雲粒や氷晶の核となるエアロゾルが含まれている「汚れた大気」を扱わなければならない。「きれいな」大気の流れを計算するのは流体力学ですむが、「汚れた地球大気」は基本的に粒体力学(これは私の造語)・混相流的観点から研究を進めていくべきだと考えている。単なる流体力学的には、連続の方程式と熱力学方程式から上昇する空気塊の気温と湿度変化を計算し、相対湿度が100%になると雲が発生する。しかし、これでは雲の本体である雲粒の粒径分布を決めることができない。雲の粒径分布が決まらないということは、降水の形成速度や雲の放射特性が決まらないということである。簡単な試算から、雲粒の大きさが数%程度変わるだけで、二酸化炭素の倍増によって引き起こされる温暖化よりもはるかに大きなインパクトを及ぼすことが明らかとなっている。

更に、我々が興味を持っている生態系との関連では、大気境界層内(高度1km以下)で形成される積雲が重要である。境界層は、陸面からの顕熱と潜熱フラックスによって日変化し、時に雲が発生する。顕熱と潜熱フラックスはもちろん陸面状態・植生分布に大きく左右される。その反対に、晴天積雲が発生した方が、植物の生育に好都合な光環境が形成されることも知られている。例えば、晴天積雲は地上気温の日中での上昇・夜間での低下を適度に抑える。また、雲からの散乱光は、直達光に比べて森林内部にまで入ることが可能である。更に、晴天積雲が存在した方が、森林による正味の炭素の同化量が増加することも知られている。最近は、熱帯雨林では更に、鳥や蝶の渡り、飛行能力の無い虫の広域移動、日常の鳥の行動なども境界層内の大気の流れと深く関係している。このように「雲」を研究テーマの中心に据えた方が、降雨・降雪を中心としたこれまでの研究よりも、他分野との関わりがより密接となるであろう。

by Y. Fujiyoshi

参考

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