研究紹介
気候および気象を力学的観点から研究しています. 以前は主に熱帯大気を研究してきました (ハドレー循環が卓越する緯度30度までを熱帯と捉えると, 地球上の面積の半分は熱帯ですから広いです. 熱帯抜きには地球の気候は語れません. もちろん中緯度も熱帯の影響を受けています). 最近はアジア-太平洋域を中心に中緯度の研究にも力を入れています. また,全球的な気候力学の研究も発展させていきたいと考えています.
研究テーマ
台風の研究 (最近の研究)
多くの研究者と協働して,「ひまわり8号」で実現した「台風の軌道観測」を活用し,また数値シミュレーションも活用して,台風の理解と強度・構造把握に革新をもたらすことを目指しています。この分野は今後大きく伸びていくことが期待されます。台風研究に関する情報はこちらから発信します。
中緯度・亜熱帯の気象・気候と水輸送 (最近の研究)
最近研究室の複数の学生達がアジア-太平洋域の気象を中心に熱心に取り組んでくれてます. 例えば次のような疑問に答えようとしています.
- 梅雨と秋雨は具体的にどう違うのか. それぞれにおける降雨をもたらす水の起源や, 水輸送に関わる気象擾乱に着目して梅雨と秋雨の動態に迫ろうとしています.
- 熱帯の季節内振動と東アジアの降雨の関係. 熱帯には, 季節内振動(あるいはマッデン-ジュリアン振動) と呼ばれる, 周期1-2ヶ月で赤道ー周ぐるっと取り囲んで降雨や雲を変調させる壮大な現象があります. それが東アジアの降水にどのような影響をどのように及ぼすかを調べています.
堀之内は 2014 年に発表した論文 (Horinouchi 2014) で,東アジアから北西太平洋にかけての気象の研究を行いました.この研究で 着目したのは,日本列島ぐらいのスケールの日々の降水分布と高度約10kmほどに おける大気の力学場の関係です.この研究でこれまで考えられている以上に 上空の影響が大きいことがわかり,上空からの力学的強制の定量化も行われました. ただし,まだまだよくわからないことがあり,研究を続けています.
大気の基本的な循環や気候の形成メカニズムの研究 (最近の研究)
ハドレー循環の理解 (と気候の将来予測へのインパクト):
ハドレー循環とは, 主に赤道付近で上昇し亜熱帯で下降する子午面循環です. 湿潤な赤道域と乾燥した亜熱帯高圧帯, そして貿易風の成因です. ハドレー循環がどのようにして生ずるかは, 基本的にはわかってますが, 循環の幅や強さ(降水分布等と密接に関係します)は, これまでの理論ではよく説明できません. ハドレー循環は近年変動していると言われており, 今後の変化も予想されていますが, 実際はまだよく分かってません. そこで, 理論的考察, 数値実験, 観測データの解析により研究を進めています.
対流と結合した赤道波と気候の関係
赤道域には積雲対流と結合し東西に伝播する波動が存在し, 気象(降水等)に影響を与えてます. 数値実験及び観測データの解析により, その波動が気候(例えば平均降水分布)にも影響を与えることが見えてきました.
気候形成についてはわかってるようで実はよくわからないことが沢山あります. このテーマは今後も広げていくつもりです.
- 熱帯気象研究 (以前より/現在も)
熱帯の下層雲の研究 (学生による最近の研究例)
海洋上の下層雲は地球の放射収支に大きな影響を与えます. この研究では, 南半球東部熱帯太平洋に広く分布する下層雲が, 対流と結合した赤道波の一種(混合Rossby重力波)などにより変調されていることが示されました (J. Met. Soc. Japan誌に印刷中).
金星大気の研究 (最近の研究)
いきなりなぜ金星?と思うかもしれませんが, 惑星大気を学ぶと, 地球大気も少し広い目で見ることができます. 大昔の地球大気の東西流には, 現在の金星大気のそれにちょっと似たところがあったという説もあります. ともかく, 金星大気はとても面白いです. 自転は非常に遅いですが, 自転速度の何十倍もの速さの高速の東西流が発達していて,スーパーローテーションと呼ばれています. その成因は地球流体力学の最大の問題の一つとも言われます. 当研究室では,この問題に観測から実証的にアプローチすべく,雲追跡による風速導出を画期的な精度と確度で行える手法を開発しました(池川,博士論文). それをさらに発展させ,日本の金星探査機「あかつき」 による風速導出と大気力学研究において主導的な役割を果たしています. 2020年4月にはその結果を発表しました(プレスリリースに解説があります. 日本惑星科学会の会誌に解説記事を書きました). が,金星大気の謎はまだまだあります.
積雲対流と大気波動の研究 (以前より行っている研究;最近はほぼ一段落)
激しい降雨を引き起こす積乱雲は, 目に見えない大気の波も作り出して, はるか遠方(水平にも鉛直にも)に影響を与えます. 鉛直には, 成層圏, 中間圏から電離圏まで広く影響を及ぼします. これについて幅広く研究を行ってきました.
- (積乱雲等による) 加熱による波動励起の理論開拓と数値実験: 惑星規模からメソスケールまで, 成層圏から熱圏まで幅広く調べました.
- 熱帯の積雲対流が励起した大気波動(赤道波や大気重力波)は, 成層圏準二年周期(QBO)という不思議な現象を引き起こします. QBOは成層圏の気候の大事な要素ですが, 気候モデルでなかなか再現されないというのが世界共通の悩みでした. これについて研究を行い, 気候モデルでQBOを引き起こすのに必要な条件を整理したり, 各国の気候モデルをその目で診断したりしました(各グループと共同で).
- 観測では, GPS電波掩蔽観測から重力波の空間構造を診断する研究などを行いました.
大気・海洋の研究基盤となる計算機基盤の開発 (以前より;現在も熱心に取り組んでいます)
研究には道具が必要です. 大気や海洋の研究は, どのようなアプローチをとるにしても計算機によるデータ処理は必須です. また, 数値モデリングによる研究も盛んに行われています. これらについて, 多くの研究者と共同で取り組んでいます. とくに, データ解析の基盤となるソフトウェア基盤開発においては, 主導的な役割を果たしています (大事なのに真っ向取り組む人は実は多くないのです).
活動の基盤となるのは, 地球流体電脳クラブ です. そこを舞台にいくつかのプロジェクトに関わっています.
- 地球流体電脳Rubyプロジェクト : オブジェクト指向スクリプト言語 Ruby を, 大気海洋のデータ解析に活用するための基盤整備をしています. Ruby をつかうと, やりたいことが楽しく速くできます.
- データサーバ Gfdnavi
- 数値モデリング基盤開発. dcmodelプロジェクト