秋雨期の降水と水輸送に対する台風の影響

1.はじめに

 梅雨期と同様に、夏から秋への移り変わりの時期に日本付近に前線が停滞し同程度の雨を降らせる秋雨期があります。図1の左側は梅雨期、右側は秋雨期の降水量の気候値で、どちらも日本付近に帯状に降水帯が広がっています。各地の月別の降水量でみると、梅雨期と秋雨期に2つのピークがある地点が多くなっています。これまでの研究で、降水帯への水蒸気供給は梅雨期は①太平洋側からと②インド洋側からの2つのルートからなされるのに対して(図2左側)、秋雨期は①太平洋側の1つのルートからのみ(図2右側)であることがわかっています(※1)。
図1: 降水量の気候値。左は梅雨期、右は秋雨期。
図2: 水蒸気フラックス(→)とその収束(カラー)。左は梅雨期、右は秋雨期。
 2つの時期には同じくらいの降水量があるにもかかわらず、秋雨の研究は梅雨と比べて非常に少ないです。この研究では秋雨期と梅雨期の降水や降水帯への水蒸気の供給の違いについて調べました。解析を進めていくと秋雨期には台風の影響が大きいことが分かったため(※2)、特に台風の影響に注目しました。  梅雨期を6月16日から7月15日、秋雨期を9月16日から10月15日とし、1979-2004の26年間について解析しました。またデータは主に気象庁のJRA-25(※3)を使用しました。

2.台風の影響

 秋雨期は台風の影響が大きいことを受けて、日本付近に台風がある時とない時に分けて比較しました。台風のデータは気象庁のベストトラックデータ※4を使用しました。
図3: 秋雨期の、台風ありの時(左側)と台風なしの時(右側)の降水量
 図3の左側は台風がある時、右側は台風がない時の、それぞれ秋雨期の降水量です。降水量は台風がない時にも日本の南岸にピークがあり、これは秋雨前線や温帯低気圧による降水だと考えられます。台風がある時は気候値のピークをそのまま大きくしたような分布になり、台風が降水帯の中に入って直接降水をもたらす場合と少し離れたところにある台風が降水帯内の前線を強化して間接的に降水を増加させる場合の2つがあることが考えられます。後者の例は図4に示します。また水蒸気フラックスとその収束について同じ解析をしたところ、秋雨期の降水帯の南側からの水蒸気フラックスは台風がある時がほとんどで、台風がない時はあまり見られませんでした。
図4: 離れた台風が前線を刺激する気圧配置の例。左側は天気図、右側は同じ時刻の地表気圧(実線)と降水量(カラー)と水蒸気フラックス(→)。台風の中心付近ではなく前線のある北緯30度付近で降水量が大きくなっているのがわかる。
 さらに台風の位置によるついて詳しく調べた。図5に示した3つの領域に台風がある時と、この3領域に台風がない時の4区分に分け、降水帯(A)の平均降水量を調べました。秋雨期の結果を表1に示します。  秋雨期はA内に台風がある時の降水量は気候値の倍以上になり、BやCに台風がある時も気候値より降水量が大きくなります。このBやC内に台風がある時は、日本付近にある前線が南から接近した台風により強化されている効果を表していると考えられます。それぞれの領域に台風がある期間を用いて秋雨全体に対する台風の影響を計算すると、台風が降水帯内にあって直接雨を降らせる場合が20%弱、台風が降水帯の南西や南にあって間接的に雨を降らせる場合が25%ほど、残りの台風が関係ない降水が60%となりました。
図5: 3つの領域。Aを降水帯、Bを降水帯の南西側、Cを降水帯の南側として、それぞれの領域に台風がある時の降水帯(A)の平均降水量を計算する。結果は表1に示す。
表1: 秋雨期に各領域に台風がある期間の長さと、降水帯Aの降水量。
 同様の2つの解析を梅雨期に対しても行いました。台風がある時とない時の2区分に分けた時は、水蒸気の経路にはあまり差が見られませんでした。さらに4つの区分に分けた時には、梅雨期はA内に台風がある時は気候値より降水量が大きくなりますが、B内に台風がある時は気候値より降水量が小さくなり、C内にある時は気候値より大きくなりますが期間が極端に短くなっています。
表2: 梅雨期に各領域に台風がある期間の長さと、降水帯Aの降水量。

谷澤 隼人

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※1 例. Yoshikane and Kimura 2005など。 ※2 秋雨期は水蒸気の供給が大きい時はすべて台風が近くにあるときだった。 ※3 気象庁の再解析データ。大気を扱う多くの研究に使われている。 ※4 台風の位置、強さの階級、中心気圧などが記録されている。