熱帯域は、地球と宇宙との放射エネルギー収支の観点で最大の入力域であり、このエネルギーが熱帯気象によっていかに分配されるかは、地球大気の循環に大きな影響を及ぼす。また同時に、赤道域は、激しい対流活動を通じて、対流圏を超え遥か上空までの大気の上下結合にとって重要な役割を果たす。しかしながら熱帯気象においては、湿潤対流が主役となるため、中緯度の大気力学のような線形理論を主軸とする理論体系が整っていない。一方、大循環モデルのような全球数値モデルの手段においても、湿潤過程の表現法が確立していないため、熱帯域の気象を現実的に再現すること自体が大きな課題となっている。
熱帯気象学には、たとえば、メソスケール対流システム、台風、積雲対流と結合した赤道波擾乱、Madden-Julian振動、そしてそれらのマルチスケール相互作用などその仕組みと役割についてなど、大変興味深い問題が未解明に残っている。一方で、衛星観測の多様化とデータの長期蓄積、赤道域観測網の充実、全球雲解像モデルの成功、また、大循環モデルにおける新しいパラメタリゼーションなど、熱帯気象学の道具立ては近年大変充実してきた。
そこで、大学関係者が幹事となって湿潤対流を主とした熱帯気象の理解を深めることを目的に年に1回程度の頻度で一堂に会し、最新の研究成果をじっくりと発表議論する熱帯気象研究会を立ち上げる。ここにおいては、プロジェクトとは一線を画した科学的な議論の活性化を目指す。また、この研究会をひとつの足がかりとして若い研究の芽が育つことを期待する。
研究会は2日程度とし、基本的に一人30分以上の発表議論時間を確保する招待講演でプログラムを組むが、幹事会の話し合いによって柔軟に対応する。
幹事(五十音順):
佐藤正樹(東大)、里村雄彦(京大)、重尚一(大阪府大)、高薮縁(東大)、寺尾徹(香川大)、西憲敬(京大)、堀之内武(北大)、増永浩彦(名大)、松本淳(首都大)
- 13:00-13:10 挨拶 堀之内, 趣旨説明 高薮/佐藤
- 13:10-13:50 里村雄彦(京大理): 降水日変化に関するレビュー
- 13:50-14:30 市川裕樹(名大環境学)*, 増永浩彦(名大HyARC), 神沢博(名大環境学):
北半球夏季インド洋における巻雲の時空間変動特性について
休憩
- 15:00-15:40 安永数明(JAMSTEC):
Water vapor variations and equatorial waves over the Indian Ocean
- 15:40-16:20 高薮縁(東大CCSR): 熱帯対流の深さに関する考察
小休憩
- 16:35-17:15 千喜良 稔(JAMSTEC):
エントレインメント率が環境場に依存して鉛直に変化する積雲対流スキーム
- 17:15-18:30 ポスターセッション
- 廣田渚郎*, 高薮縁 (東大CCSR):
CMIP3 マルチモデルにおける熱帯海洋上の非断熱加熱の鉛直構造
- 西本絵梨子(京大生存研)*, 塩谷雅人(京大生存研):
熱帯対流圏界面付近における東西非一様な温度構造の特性について
- 小石和成*,塩谷雅人(京大生存研):
熱帯対流圏界面遷移層における水蒸気の変調と鉛直温度構造との関係性
- 久保川 陽呂鎮*, 藤原 正智 (北大環境科学院), 那須野 智江 (JAMSTEC),
佐藤 正樹 (東京大学 CCSR):
全球・非静力学大気モデルNICAMの2006年12月MJO実験データを用いた対流圏界面領域の解析
- 吉田康平*(北大環境科学院), 山崎孝治(北大地球環境),
Kevin Hamilton (Univ of Hawaii, IPRC):
熱帯対流圏界面付近における準二年周期振動の構造
- 土屋主税 (東大院理)*, 佐藤薫 (東大院理), 三浦裕亮 (CSU, FRCGC), 那須野
智江 (FRCGC), 佐藤正樹 (東大CCSR):
全球非静力学モデルデータを用いた広帯域周波数スペクトルの普遍性の研究
- 村田文絵(高知大理学部):
インドモンスーンにおけるバングラデシュの位置づけ
- 大塚成徳*,余田成男(京都大学大学院理学研究科):
熱帯対流圏中層に見られる湿潤層状構造の形成過程に関する数値実験
- 09:00-09:40 佐藤正樹(東大CCSR)
雲微物理・上層雲・ハドレー循環:全球雲解像モデルによる気候感度研究
- 09:40-10:20 増永浩彦(名古屋大学)*,Tristan L'Ecuyer (Colorado州立大学):
The southeastern Pacific warm band and double ITCZ
休憩
- 10:50-11:30 堀之内 武(北大地球環境):
放射対流平衡におけるハドレー循環:基本的な制約条件と対流-波結合の役割
- 11:30-12:10 森 正人*・渡部雅浩(東大気候システム):
水惑星実験における東西非対称なSSTに対するHadley循環の非線型応答
昼食
- 13:30-14:10 寺尾徹(香川大教育) :
エル・ニーニョのアジア夏季モンスーンへの遅延影響
- 14:10-14:50 清木亜矢子 (JAMSTEC): MJOとENSOとの相互関係
休憩
- 15:20-16:00 *西憲敬 1 ・西本絵梨子 2・林寛生 2・塩谷雅人 2・高島久洋 3 ・
津田 敏隆 2 (1:京都大院・理 2:京都大・生存圏 3: FRCGC/JAMSTEC):
熱帯上部対流圏における準定在循環の構造
- 16:00-16:40 吉田康平*(北大環境科学院), 山崎孝治(北大地球環境):
熱帯対流圏界面領域におけるvertical eddy heat fluxの役割
小休憩
- 16:55-17:35 河谷芳雄 *(JAMSTEC), 佐藤薫(東大院理), T.J. Dunkerton(NWRA),
渡辺真吾(JAMSTEC), 宮原三郎(九大院理), 高橋正明(東大CCSR):
成層圏QBOに於ける赤道波と3次元重力波の役割
ポスターボードは横115cm, 縦175cmです.鋲は各自持ち込んでください.