はじめての放射線計測
エネルギー校正
エネルギー校正を行うには、既知の放射線源を実際に測定し、スペクトルピークの位置を特定すればよい。 しばしば利用される核種に、ラジウム 226 (Ra-226)、コバルト 60 (Co-60)、セシウム 137 (Cs-137) などがあり、今の時代、比較的容易にネットで手に入るのかもしれない。 しかし、これらが入手できたとしても、勝手にゴミとして捨てる訳にはゆかない。 厳密さは少し犠牲にせざるを得ないが、市民が自力で行うには自然界に存在する放射線を利用してみよう。 しばしば用いられるのは、カリウム 40 (K-40) の 1461 keV とタリウム 208 (Tl-208) の 2614 keV である (
「空間γ線スペクトル測定法」
文部科学省, 1990)。
K-40 (1461 keV) のピークを探す: 汚染されていない自然界で最も卓越するγ線の 1 つに、K-40による 1461 keV のγ線がある (
原子力資料情報室
)。 室内で測定したエネルギースペクトル (下図) を見てみよう。 卓越するピークを 1 つだけ特定するのは難しく、unit 26 (赤で表示), 37, 46 付近の他、unit 75 付近にも幅の広いピークが認められる。 これだけでは、どれが K-40 のピークなのか分からない。
室内で観測された信号のパルス高ヒストグラム (対数スケール) 例。 積算時間 60 分。横軸は PRA の unit 値。
天然放射線源の利用: カリウムは花こう岩や大理石に多く含まれる。 近くに、大理石らしきものが敷かれた床があったので、その上に Mr.Gamma を置いてエネルギースペクトルを求めてみた (下図)。 上図との最も顕著な差は、unit 26 に認められる (bin 52 の1時間当たりのパルス数が45から110に増加)。 大理石の上に置いた場合の方がより多くのγ線を観測していると考えられるから、unit 26 が 1461 keV に対応する可能性が高い。 ただし、unit 21 付近に新たに現れたピークも候補になり得る。 一方、タリウム 208 の 2614 keV は見えるだろうか。 単純な比例関係を仮定すると、2614/1461 = 1.79 だから、K-40 が unit 26 なら Tl-208 は unit 47 付近に、K-40 が unit 21 なら Tl-208 は unit 38 付近に見えるはずだ。 上図をみると、unit 47 付近にも 38 付近にもピークらしきものがあるようにも見え、残念ながら、断定するには至らない。 現段階でのエネルギー校正因子は、前者なら 1461 keV/26 unit = 56.2 keV/unit、後者なら 1461 keV/21 unit = 69.6 keV/unit と求まる。
大理石の上で観測された信号のパルス高ヒストグラム例。 条件は上図と同一。
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