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第 288 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2021/11/2(水) 14:30 -- 15:30

ツール:Zoom

発表者:藤本 海

題 目:南大洋における海面熱吸収の変化とその要因

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南大洋における海面熱吸収の変化とその要因(藤本 海)発表要旨:

        IPCCの報告書によると地球温暖化の環境下で地球は余剰の熱エネルギーを蓄えて
        おり、その約9 0%が海洋に蓄積されている。このことから、海洋が温暖化によっ
        て生じた余剰熱の大部分を吸収していることが考えられるが、その実態は明らか
        になっていない。また、地球温暖化は全球で一様に起こるわけではなく、熱吸収
        も時空間的に非一様に起きていると考えられる。海洋観測や気候モデルを用いた
        過去の研究によると、海洋の貯熱量の変化のうち60%以上が南大洋に起因すると
        推定されていて、南大洋の熱吸収についての詳細を知ることは重要な研究課題で
        ある。気候モデルを用いた過去の研究(Hu et al,. 2020)では、産業革命前の二
        酸化炭素濃度を維持した実験と、濃度を倍増させた実験の比較により、地球温暖
        化の過渡的応答として現れる海面熱吸収について調査した。その結果、気候モデ
        ルにおいて南大洋は他の海域と比べて熱吸収が最も大きいこと、またそれに対応
        して海洋の北向きの南北熱輸送偏差が生じていることを示した。しかしながら、
        この研究は単一の気候モデルの結果であることと、また海洋内部のプロセスのみ
        に注目した研究である。Hu et al. 2020を含む、過去の研究の多くは数値モデル
        にに基づく研究や、現場海洋観測(貯熱量)を解析した研究であるが、観測的な海
        面熱フラックスに注目した研究は少ない。海面フラックスは、大気と海洋の熱の
        出入りを表すことからこの海洋の熱吸収プロセスを直接的に研究可能である。一
        方で、過去の研究では観測的な海面フラックスデータの精度が不十分であること
        からデータ間でのばらつきが多いことも知られている。実際に10年という比較的
        短い期間に絞った比較研究ではあるが、その結果は大気再解析、海洋再解析、衛
        星観測データの4つデータは、平均場、経年変化においてもその正負に大きな不
        一致を示した (Liang and Yu, 2016)。しかしながら、観測的な海面フラックス
        推定は発展途上であり、最新の観測データセットでは、精度やデータ間のばらつ
        きが改善している可能性がある。したがって、南大洋の海洋の熱吸収を新しい海
        面熱フラックスデータを用いて直接的に把握し、その要因についても調査するこ
        とが可能となることが期待される。以上の研究背景から、本研究の目的は南大洋
        の熱吸収について、海面熱フラックスの変化とその要因を過去30年程の最新の観
        測データ、気候モデルの比較から調査することである。本発表では、最新の大気
        再解析データ(ERA5)、海洋再解析データ (ECCO4), 衛星推定データ(J-OFURO3), 
        気候モデルデータ(CMIP6)をそれぞれ準備し、まず過去の推定結果や現場観測と
        の比較を通して推定の改善を確認する。また今後、取得した海面熱フラックスデ
        ータの解析を進めることで南大洋の熱吸収の変化とその要因、過去の気候モデル
        研究で示された北向きの南北熱輸送量の変化を大気海洋の変化と関連づけて調査
        し考察する。
    

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北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース D1
太田 聡 (Satoshi Ota)
E-mail:ota_satoshi[at]ees.hokudai.ac.jp
([at]を@に置き変えてください)