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第 279 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2021/10/26(火) 14:00 -- 15:00

ツール:Zoom

発表者:内田 弘信

題 目:晴天乱気流による航空事故の際の気象場の解析

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晴天乱気流による航空事故の際の気象場の解析(内田 弘信)発表要旨:

  航空機の運航の安全性と効率性に問題(航空機の損傷,負傷者)をもたらす乱流のことを航空乱気流という。
その中でも、高高度の雲の無いところに発生する乱気流のことを晴天乱気流(Clear Air Turbulence :
CAT)と呼ぶ。CATは、特に、風のシアの大きい所や、ジェット気流付近において頻発するとされる。晴天乱気
流を含む航空乱気流を予測・解析するために開発された指数のことを乱気流指数とよび、数多くの種類が存在
する。各々の乱気流指数は、乱気流の発生メカニズムを念頭に開発されている。代表的なCAT指数として、水平
風の鉛直シア(Sv)、水平風の水平変形(DEF)、SvとDEFの積で表すEllrodの第一指数などがある。特に、Svや
気温減率の大きい領域においてRichardson Numberが減少し、CATが起こりやすいといわれている。
先行研究において、航空機の種類に依存しない乱気流強度に関する予測を提供するための指数の検証(Sharman 
and Pearson, 2017;ICAO,2003)が行われた。近年、乱気流強度を定量的に測定できる乱気流指数として、
エネルギー消散率(EDR)が有効であると結論づけられ、一部の航空会社にEDRを測定する機上レーダーを搭載し、
乱気流指数による乱気流予測と観測結果(パイロットレポートとEDRレポート)を比較し、乱気流の予測を評価する
研究が行われた(e.g.,Sharman and Pearson, 2017; Kim et al., 2017)。
一方、運航中の旅客機による大気環境観測プロジェクトIAGOSのデータを用いて、添田(2015)はCATの発生する
地域的、季節的特徴を解析し、田村(2019)は北大西洋航路と太平洋航路での飛行時における乱気流を評価し、土
屋(2020)は乱気流指数と乱気流強度の統計的な関係性を考察した。しかし、これらの研究では乱気流強度と気象
場の比較を行っていない。そのことを踏まえて、内田(2020)では、日本上空において乱気流が発生した場所と日
時が明確な事故事例17件について、乱気流指数を用いて気象場の検証を行った。しかし、内田(2020)では、乱気
流が起こりやすいとする乱気流指数の閾値を一つの事例から主観的に決めていた。
本研究では、航空乱気流が具体的にどのような気象条件の時に生じるのか、基礎的な気象学的な理解を目指すこと
を目的として、内田(2020)よりもはるかに多くの航空乱気流事例について、ECMWFの再解析データERA5を用いて、
気象場の状況を解析する。
今回は、新たに、航空乱気流事例の情報としてパイロットレポート(米国上空、2016年の一年分)を入手できたので、
その解析結果と、内田(2020)での課題であった乱気流指数閾値に関して検証を行った結果、並びに今後の展望につ
いて述べる。
        
    

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北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース D1
太田 聡 (Satoshi Ota)
E-mail:ota_satoshi[at]ees.hokudai.ac.jp
([at]を@に置き変えてください)