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第 276 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2021/10/13(水) 13:00 -- 14:00

ツール:Zoom

発表者:丹羽 修二

題 目:海洋成層状態の長期変動と地球温暖化による影響

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海洋成層状態の長期変動と地球温暖化による影響(丹羽 修二)発表要旨:

  数値モデルを使った大気海洋系の将来予測では、地球温暖化に伴う海面水温の上
昇が海洋の成層状態を強め、それに応じて海洋表層の混合層は浅くなることが示
されている(Kwiatkowski
et al.,
2020)。しかし、このような将来予測に用いられるCMIP5のシミュレーションでは、
南大洋における混合層深度の季節サイクルや、最大混合層深度の位置を再現する
ことは困難であると指摘されており、そのために、これらのモデルにおける永年
密度躍層の特性や通気率の表現は必ずしもまだ充分ではない(Sallee
et al.,
2013)。このような数値モデルの不充分さは南大洋だけでなく、北半球の中緯度
から高緯度にかけて海洋循環や海洋の成層構造にも観られている(Russel
et al.,
2015)。このため、海面水温の温暖化―海洋の成層の強化―海洋混合層深度の浅化
といった関係が将来どのように変遷していくかを知るためには、現在気候におけ
る現実の海洋ではどうなっているのか検証が求められている。

観測データによる成層強度、混合層深度の変化を示したSallee et
al.(2021)では、1970年から2018年における全球海洋の成層強度、混合層深度の
トレンドを求め、夏季の混合層深度が深まっていることを明らかにした。しかし、
その原因について長期的な線形トレンドによる考察しか行われておらず、混合層
の定義による違いについても充分には調べられていない。また、Yamaguchi
& Suga(2019)では、10 mと200 mの密度差による成層強度と、北太平洋・北大西
洋モード水などとの関係が示された。しかし、10 mと200
mのような一律の深さを用いた成層強度の指標については、いくつか問題点が指
摘されており(Somavilla et al., 2017、Sallee et
al., 2021)、海域ごとの海洋鉛直構造を考慮するといった再考の余地がある。

そこで本研究では、観測データを用いて成層強度や混合層深度の長期時系列に含
まれる、放射強制力の増加に伴う地球温暖化成分と大気海洋系における自律的な
内部変動成分との関係を明らかにすることを目的とする。また、Yamaguchi
& Suga(2019)で示された結果について、混合層深度を基準とした成層強度の指標
(Sallee et al,
2021)などを検討することで、北太平洋・北大西洋モード水などの温暖化が成層
強度に与える影響について、改めて考察を行う。

本研究ではWorld Ocean
Database(WOD18)より北半球における、1960年から2020年の水温、塩分観測デー
タを取得し解析を行っている。現在は、混合層深度の基準による違いについて、
時間変動や地域による違いに着目した解析を行っている。本発表では、それらの
結果と今後の展望について述べる。
    

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北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース D1
太田 聡 (Satoshi Ota)
E-mail:ota_satoshi[at]ees.hokudai.ac.jp
([at]を@に置き変えてください)