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第 275 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2021/10/12(火) 14:00 -- 15:00

ツール:Zoom

発表者:柳原 脩臣

題 目:台風推定風速のデータ同化利用

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台風推定風速のデータ同化利用(柳原 脩臣)発表要旨:

  台風の強度推定は多くの現業センターで、主にDvorak法*(*Dvorak, 
1975, 1984)
に基づいて行われている。Dvorak法では、衛星画像の解析から得られ
た雲パターンから、強度指数を経験的に推定し、この強度指数と台風強
度の対応表を使用することで台風の強度を推定する。しかし、このDvo
rak法は物理法則に従うものではなく、同じ強度指数でも推定強度のばら
つきが大きいことが指摘されている(北畠ら2018)。
また、台風の強度予報の誤差はここ数年変わっておらず、ほとんど改善
されていない。
その要因の1つに、数値予報の初期値に使われる強度推定の不確実性が
挙げられる。
この不確実な強度推定の改善策の1つとして、客観解析に基づいて強度・
構造推定をすることが挙げられ、今日では客観解析にデータ同化手法が
主に用いられている。中でも静止衛星観測を用いたデータ同化は、静止
衛星が安定して広い地域を高頻度で観測できるため、海上の台風の客観
解析を行うのに効果的な方法であると言える。

 2015年7月に運用が開始された日本の静止気象衛星であるひまわり8
号では、日本に影響を与える可能性のある台風を2.5分おきに観測する
台風機動観測が実施されている。

 Tsukada&Horinouchi(2020)では、ひまわり8号の高い時空間分解
能の可視画像から台風の目領域の下層の風速を導出する手法が開発され
た。一般に、インパクトの大きい台風の最大風速域は大気境界層上端の
およそ高度1㎞の壁雲付近にあり、衛星で直接観測することはできない
が、この新たに得られるようになった目領域の推定風速を用いてデータ
同化を行うことで、衛星観測だけでは分からなかった領域の構造を推定
できるようになることが期待される。

 本研究ではこの新たに得られるようになった目領域の推定風速を用い
てデータ同化を行い、どの程度強度推定できるのか評価し、どのように
同化を行うのが効果的か調べる。
2019年19号台風HAGIBISを対象事例とし、領域気象気候モデルSCAL
E-RM及びSCALE-LETKFを用いて完全モデルを仮定した観測システム
シミュレーション実験を行い、同化の評価をする。

今回の発表では観測システムシミュレーション実験の途中経過と、今後
の展望について発表する。
    

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北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース D1
太田 聡 (Satoshi Ota)
E-mail:ota_satoshi[at]ees.hokudai.ac.jp
([at]を@に置き変えてください)