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第 270 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2020/10/14(水) 13:00 -- 14:00

ツール:Zoom

発表者:大西 晴夏

題 目:西岸境界流続流ジェットに関する研究

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西岸境界流続流ジェットに関する研究(大西 晴夏)発表要旨:

    黒潮などの西岸境界流とその続流は、幅が狭く流速が大きいジェットと、その南
    北に再循環をもっていることが、観測等で確認されている(Bo Qiu et.
    al(2008)など)。この“再循環をともなうジェット”という構造の力学的な理解は、
    海洋力学における重要な課題の一つである。ジェット構造の再現としては、流入
    と流出によるモデルの研究が存在する(Waterman & Jayne(2011)やMizuta(2012)
    など(以下WJおよびMZ))。これらの研究で再現された順圧不安定ジェットは、
    上流域で不安定の成長とエンストロフィーの生成が行われている。一方、下流域
    ではそのエンストロフィーの収束が起こり、乱流渦位フラックスの上向き勾配を
    つくりロスビー波の放射域となっている。そして、ロスビー波は再循環を発生・
    強化し、再循環は全体の構造を安定化させる。このジェットの描像は非常に洗練
    されており、理にかなっているように見える。一方、Sue and Kubokawa(2015)
    (以下SK)の早期離岸解では、西岸で形成される正の渦度と、南側からのβ効果
    で生成された負の渦度が対をつくることが、ジェットを駆動しているように見え
    る。これは渦位強制によるジェット構造の再現可能性を示唆しているように思わ
    れる。そこで、本研究では、従来のモデルでは分離しにくい、ジェットと背景流
    を分離可能な、渦位強制と背景流を独立に調整できるモデルを構築し、まず本モ
    デルによるSKの実験の再現を試みた。そして、本モデルの特徴を用い、以下の事
    を解明することを目的とした;1)このモデルによって形成されたジェット構造
    が、WJおよびMZのジェット構造と同様のものなのか。違うのならばどのような力
    学的構造をしているのか。2)ジェットにおける背景流の効果。結果として、1)
    に関しては、本モデルで形成されるジェットの構造は、従来のモデルに比べ長く、
    擾乱場の二次成分の平均が一様化していないように見られた。現在、WJおよびMZ
    との正確な比較のためのジェットの長さ等の定量化法を試作中である。2)に関
    しては、ジェット流の維持には、Cessi(1988)で扱われている下層の渦位一様領
    域が重要であることが考えられ、β効果を変更したものや層厚比が違う実験でそ
    の重要性を確かめた。先行研究などで、背景流に南北成分が存在するとジェット
    がそこから伸びにくくなるのは、上下層で等渦位線が逆に南北に傾き、ジェット
    と渦位一様領域の伸張方向が異なるためであると考えられる。また、ジェットの
    伸びは、背景場において、東西流成分より南北流成分にセンシティブであること
    が確かめられた。渦位一様領域の定量化も、現在試作中である。
    

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北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース D1
塚田 大河 (Taiga Tsukada)
E-mail:tsukada[at]ees.hokudai.ac.jp
([at]を@に置き変えてください)