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第 269 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2020/10/07(水) 13:00 -- 14:00

ツール:Zoom

発表者:太田 聡

題 目:ひまわり衛星画像を用いた台風の発達過程における対流バーストの影響の研究

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ひまわり衛星画像を用いた台風の発達過程における対流バーストの影響の研究(太田 聡)発表要旨:

    台風は軸対称な構造を持つため, 台風の構造研究では軸対称を仮定した議論が多
    く行われてきた(Ooyama 1969, Emanuel 1986). しかし, 台風の発達過程にお
    ける急発達などの現象は軸対称成分だけでなく, 非軸対称成分による台風の強化
    が重要な役割を果たす. その中でも, 対流バースト(convective burst: CB)と呼
    ばれる台風内で発生する突発的で強い上昇流は台風の形成・発達に寄与する要因
    の一つとして考えられている. Montgomery et al(2006)によって行われた数値実
    験ではCBの台風の形成に対する力学的プロセスが示された. 彼らはCBの発生によ
    る下層収束とストレッチングの効果によってその位置で局所的に強い低気圧性渦
    度場が形成されることを示し, それが台風の強化につながることを示唆した. ま
    た, Rogers et al.(2013)のドップラーレーダーを用いた航空機観測の研究によ
    り, CBの空間分布がCBの台風発達への影響に重要であることが示された.
    上記のような数値実験や航空機観測では直接的に上昇流を用いてCBを定義する.
    そのような定義のもとでは, 個々のCBを区別した議論がなされている. 一方, 衛
    星観測では上昇流によって発生する積乱雲のアンビルをCBとして観測する. Zehr
    (1992)をはじめ衛星観測における研究では赤外画像内の輝度温度が特に低い領域
    を集合的に捉えたものをCBと定義する. そのため, 数値実験や航空機観測で行わ
    れているように個々のCBを区別して検出することは難しい.
    そこで本研究では物体検出の機械学習を用いてひまわり衛星画像内から個々のCB
    を検出することで台風の発達過程におけるCBの影響について検討する. 物体検出
    の機械学習アルゴリズムはMask-RCNNを用いる(He et al., 2017). これは物体の
    ピクセル単位の分類と位置の推定が可能である. CBによって形成されるアンビル
    は赤外画像で見ると, 輝度温度が低いため白く, 対流圏界面にぶつかることで円
    形または楕円形の特徴を持つ. これらの特徴をアルゴリズムに学習させ, そのモ
    デルに台風の衛星画像を入力することで台風内のアンビルを検出する. その後,
    時間的に連続した画像内の検出領域の重なり具合から個々のアンビルにIDを付与
    する. さらに面積や輝度温度といった特徴量をもとにCBを抽出する.
    現状としてはモデルの検出精度の向上に取り組んでいる. その後, 多くの台風か
    ら抽出したCBの特徴量をもとに, 発達過程において発達する台風と発達しない台
    風のCBの空間分布や発生頻度の違い, 台風の発達に伴うCBの時間変化などを統計
    的に解析する予定である. 本発表では, 現在開発中である検出手法の進展状況と
    今後の展望について述べる.
    

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北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース D1
塚田 大河 (Taiga Tsukada)
E-mail:tsukada[at]ees.hokudai.ac.jp
([at]を@に置き変えてください)