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第 260 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2018/10/25(木) 14:00 -- 15:00
場 所:環境科学院 D101

発表者:木村 啓人(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:成層圏オゾンの年々変動の研究~トレンドの水平分布と ENSO に対する応答~

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成層圏オゾンの年々変動の研究~トレンドの水平分布と ENSO に対する応答~(木村 啓人) 発表要旨 :

 成層圏オゾンにおいてオゾン層の破壊、回復というのは重要な問題である。
最近の研究で分かったこととして成層圏のオゾンがモントリオール議定書を
はじめとしたオゾン破壊物質の規制の効果で1997年以降、極域以外の殆どの
地域で減少が止まり、緩やかな増加に転じたということだ。成層圏のオゾン
の回復を調査することを目的とした Ball et al.,2017 では上部成層圏のオ
ゾン回復を相殺するほどのオゾン濃度の低下が下部成層圏で発見された。結
果として1998年~2016年の期間のオゾントレンドの東西平均は高度35km以上で
正、高度25km 以下で負のトレンドが示された。一方、気象庁のオゾンゾンデ
による日本(札幌,つくば,那覇)上空のオゾンの鉛直分布の観測(2000年~2016年)
では高度25km以下で正のトレンドが観測された。以上の2つの観測結果を比較
した際の矛盾点からオゾントレンドは東西方向に一様になっておらず、トレン
ドに分布があるのではないかという仮説が建てられた。本研究ではその確認を
行い、さらに東西方向に一様ではない理由を考察する。
 また下部対流圏から下部成層圏までのオゾンのENSOへの応答の調査を行った
Oman et al.,2013(観測期間2004年8月~2012年5月)では西経110~180度の熱帯下
部成層圏(17~21km)においてEl Niñoの時は東西平均されたオゾン濃度が減少し、
La Niñaの時は東西平均されたオゾン濃度が増大するという結果が示された。
先ほどの Ball et al.,2017 と気象庁のオゾンゾンデ観測の矛盾点から成層圏
のオゾンの東西分布を調査することは十分意義がある。ENSOは東西方向に非一
様なIndexであり、成層圏全体を研究対象とした場合Oman et al.,2013では不
十分な為、オゾンの水平分布に対するENSOへの応答を成層圏全体にわたって調
査する価値は十分にある。従ってENSOのオゾン分布ヘの寄与も考えることにし
た。
 本研究で使用するデータは約30年間にわたって多くのリム観測 (limb sounding)
と太陽掩蔽衛星(solar occultation satellite)によって得られた成層圏の水蒸
気とオゾンのデータのデータセット(SWOOSH)とし、解析手法は Ball et al.,2017 
で用いられた手法である重回帰法を用いることにした。重回帰法の特徴として
トレンドの成分と ENSO の成分を独立に求めることができる。発表では本研究で
用いる重回帰法に対する補足の説明とその検定、研究の進捗報告として東西平均
されたデータで重回帰計算を行ったそれぞれのIndexに対するオゾンの東西平均
と今後の研究計画について発表する。

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
松下 侑未 Matsushita Yumi
E-mail:yumi-matsushita@ees.hokudai.ac.jp