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第 255 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2018/10/17(水) 15:00 -- 16:00
場 所:環境科学院 D101

発表者:寺村 大輝(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:北東アジア半乾燥地域におけるメソ対流系の発達に対する大気と陸面の寄与

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北東アジア半乾燥地域におけるメソ対流系の発達に対する大気と陸面の寄与(寺村 大輝) 発表要旨 :

北東アジア半乾燥地域では,夏季の降水日変化が明瞭であり(Iwasaki et al., 2008),降雹などの激しい大
気現象が確認されている(佐藤, 2004).このような夏季の降水は,午後に発生するメソ対流系(MCS)による
ものと考えられるが,この地域ではMCSに関する研究は少ない.中国北部では,MCSの発生日には特徴的
な大気総観場が存在することが確認されている(Xia et al., 2018).また,半乾燥地域のサヘルでは,地温や
土壌水分の分布が不均一であるほどMCSの発生数が増加することが示されている(Taylor et al., 2011).
したがって,大気と陸面の両方がMCSに影響を与える可能性が考えられる.そこで,本研究は北東アジア
半乾燥地域におけるMCSの発生状況およびMCSの発生に対する大気と陸面の寄与を調べた.
 
 気象衛星データを用いてMCSの抽出を行った.赤外輝度温度-40℃以下の領域を発達した対流雲とし,
5,000km²以上の領域をもつ対流雲をMCSとした.また,MCSの発生地を追跡するために,1時間ごとにさ
かのぼってMCSにオーバーラップしている対流雲を追い,初めて現れた対流雲の地点を発生地とした.
 大気の解析には、JRA55再解析を用いた.解析期間は1996-2017年の6-8月であり,対象地域は40°-50°N,
 100°-120°Eである.その領域内で1日ごとにMCSの発生数を調べ,発生数の多い上位10%(15個)の日をMCS
大発生日とした.このMCS大発生日とその前後5日間について、大気総観場の解析を行った.
 陸面の解析には,ひまわり5号の赤外及び可視データ(空間分解能0.05°)を用いて,対流雲の出現頻度が最も
少ない午前10時の地温分布を調べた.解析期間は1998-2002年の6-8月であり,対象地域は同上である.可視
反射率0.18以下の領域の赤外輝度温度を地温の代替(LST)とし,LSTが18℃以下の領域を除くことで,雲によ
るLSTへの影響を最小限にしている.その上で,前後10日平均からのLST偏差(LSTA)を求め,0.35°格子ごと
にその領域内でのLSTA分布の標準偏差(σLSTA)を算出した.
 
 MCS発生地の分布および発生時間を調べると,北東アジア半乾燥地域やその周辺では,同じ緯度帯と比べ
てMCSの発生数が多く,日中に発生頻度が高いことが分かった.
 MCS大発生日の大気総観場を解析した結果, 500hPa高度では,対象領域の西側に低高度偏差が,東側に
高高度偏差が有意に見られる.下層(800hPa)においては対象領域の比湿が有意に高くなっており,時間をさ
かのぼると水蒸気が北西側から運ばれてきていることが確認できる.また,500hPaの相当温位から800hPa
の相当温位を引いた値は有意に小さいため,対流不安定な状態であることが示唆される.
 また,全領域全期間のσLSTAの値を10%ごとに分け,MCS発生地のσLSTAがどの10%値に含まれるのかを
調べると,σLSTAの下位10%から上位10%にかけてMCSの発生数が約10倍となっている.したがって,地温
偏差分布が空間的にばらついているほど,MCSの発生確率が増加することが確認された.

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
松下 侑未 Matsushita Yumi
E-mail:yumi-matsushita@ees.hokudai.ac.jp