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第 252 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2017/10/19(木) 14:00 -- 15:00
場 所:環境科学院 D101

発表者:石井 義人(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:子午面循環量変動に対する全球海洋の応答

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子午面循環量変動に対する全球海洋の応答(石井 義人) 発表要旨 :

海洋の深層循環は、熱の再分配に大きく影響し、地球機構において非常に重要
である。特に大西洋北部での沈降は、北大西洋海流による北向熱移流を助け、
高緯度であるにも関わらず、ヨーロッパを温暖に保っている。

海洋は(地熱の効果が無視できると仮定すると)海面のみからの浮力と応力によ
り、駆動されることになる。海面での加熱冷却のみを考えた場合、海面下の水
は、最も冷却された重い水で占められることになるので、子午面循環は起きな
い。子午面循環の形成には、高緯度海面での冷却とともに低緯度での深層への浮
力の輸送が重要となる。これを担うものが海洋の微細な乱流であり、乱流のエネ
ルギー源の最大のものが潮汐なので、海洋子午面循環は月によって駆動されると
いうような言い方もされた。しかし、潮汐や大気擾乱から考えられる海洋乱流エ
ネルギーは現実の子午面循環を駆動するには足りないという話は以前から有った
(Gregg 1987,Munk 1998 など)。

海洋の深層及び底層の水は北大西洋北部と南極の周りで形成される。北大西洋で
形成される重い水は北大西洋深層水と呼ばれ、水温躍層の下から2500m程度まで
を占め、その下には、南極周りで形成された底層水が存在する。北大西洋深層水
は、ガルフストリームから連なる高温高塩海水が北大西洋海流に運ばれ、沈降
し、南に流れ、南極周極海を経由し、他の海洋に入り、喜望峰を回って大西洋に
戻ってくる(ブロッカーのコンベアベルト)。これをAMOC(Atalantic Meridional
Overturning Circulation)という。以前より、この浅い子午面循環の強度が南大
洋上の風に敏感であることが数値モデルにおいて指摘されていた(例えば、
Toggweiler and Samuel 1995, Tsujino and Suginohara 1999)。Gnadadesikan
(1999)は、子午面循環の強さと密度躍層の深さが乱流鉛直拡散(中低緯度での湧
昇)と南大洋での風と、南大洋での渦にどう関係するかをシンプルな理論モデル
で議論し、南大洋での過程の海洋構造決定における重要性を示した。南大洋での
過程は、南大洋での西風がEkman輸送により表層の水を北に運び、その水は南極
海での北大西洋深層水の湧昇によって補われ、それが世界を巡って、北部大西洋
で沈降するという描像である。また、 Gnadadesikan et al. (2007)はこの理論
の検証を数値モデルを用いて行い、さらに、海洋表層での放射性炭素の分布を数
値モデルで説明するには、子午面循環がほとんど南大洋での風によって引き起こ
されている必要があることを示した。最近では、上記アイデアに基づいて、海洋
循環内部での鉛直拡散は小さく、AMOCは風によるという考えでの理論モデルが幾
つも提出されている (例えば、Radko and Kamenkovichi 2011, McCreary et
al. 2016など )。

最初に述べたように、深層循環は地球気候に対して重要な役割をしている。上で
述べたように、AMOCが南大洋上の風により支配されているとするのであれば、南
大洋上の風の変動は直接的に北半球に気候に影響する可能性がある。これがどの
ように時間スケールで、どのような経路をとって、AMOC に影響するのかという
のも明らかにしていく必要があろう。ここでは、北大西洋での深層水形成の停止
の影響がどのような時間スケールでどのように広がるかという問題を扱った
Jhonson and Marshall (2002, 2004)など)に準拠し、彼らと同様の1.5層モデル
を用いて、この問題にアプローチすることを考える。

この問題において重要となるのはケルビン波とロスビー波である。小さい空間ス
ケールを持つ沿岸ケルビン波を正しく再現することが必要となるため、水平グ
リッドを細かくする必要があるので、鉛直分解能は犠牲にし、1.5層とする。

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
三村 慧 Mimura Satoru
E-mail:s-mimura@ees.hokudai.ac.jp