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第 245 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2016/10/18(火) 16:00 -- 17:00
場 所:環境科学院 D101

発表者:八田 和奏(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:地球温暖化の停滞(ハイエイタス)と海面熱フラックスの長期変化との関係

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地球温暖化の停滞(ハイエイタス)と海面熱フラックスの長期変化との関係(八田 和奏) 発表要旨 :

産業革命以降、温室効果ガスの増加に伴って全球平均気温は上昇を続けている。
しかし、2000年付近からは全球平均気温の上昇ペースは減速している。この状態
は地球温暖化のハイエイタス(停滞)と呼ばれている。一方で、海洋に着目する
と海面水温(SST)は気温と同様に2000年付近から上昇が停滞しているが、亜表
層での熱量はむしろ増加を続けていることが指摘されている(Chen and Tung,
2014)。この時期の放射強制力はそれ以前と変化していないことから、2000年以
降の海洋による熱吸収がハイエイタスの要因とされている。 Kosaka and Xie
(2013)では大気海洋結合モデルにおいて熱帯太平洋の東側のSST変動を観測値に
置き換えた実験を行い、ハイエイタスが再現されることを示した。熱帯の大気と
海洋はお互いに影響し合っていることから、England et al. (2014)では大気海
洋結合モデルにおいて熱帯太平洋の貿易風を観測値に置き換えた実験を行い、同
様にハイエイタスを再現する結果を得た。また、過去150年くらいを振り返ると
全球平均気温は直線的に増加しているのではなく、上昇と停滞を繰り返した階段
状になっている。この上昇と停滞のタイミングも熱帯太平洋のSST変動を観測値
に置き換えた結合モデル実験で再現された(Kosaka and Xie, 2016)。これらの
ことから、熱帯太平洋を起源とした大気海洋結合系の変動がハイエイタスの主な
要因と考えられている。全球平均気温の上昇が停滞している一方で、海洋亜表層
の熱量は増加を続けていることから、海洋は大気から海面を通して熱を吸収して
いるはずである。しかし、海面熱フラックスの分布は示されておらず、指摘され
ている海洋亜表層での熱量増加がその場所での大気と海洋の熱交換のみで起こっ
ているのか、別の場所で吸収された熱が海洋循環によって運ばれて起こっている
のかは不明である。そこで、本研究では「ハイエイタス期間での海洋の熱吸収が
起こっている場所を明らかにし、その熱の取り込みについて調べる」ことを目的
とした。ハイエイタス期間では温暖化が持続した場合に対して気温上昇に関与し
なかった分の熱量が海洋亜表層での熱量増加に関わっていると考えられることか
ら、温暖化が持続する放射強制力のみを与えた結合モデル実験と温暖化の停滞が
再現された放射強制力と熱帯太平洋のSST変動を与えた結合モデル実験の比較を
行った。データはKosaka and Xie, (2016)のモデル実験結果を使用し、1900年か
ら現在までに確認された4つのハイエイタス期間(1900年代、1940年代、1970年
代、2000年代)においての海面熱フラックスや水温、風の分布について調べた。
今回の発表ではその結果と考察および今後の展望について述べる。

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
三村 慧 Mimura Satoru
E-mail:s-mimura@ees.hokudai.ac.jp