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第 237 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2015/10/14(水) 15:00 -- 16:00
場 所:環境科学院 D201

発表者:一木 拓哉(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:夏季南アジアにおける降水の季節内変動、日変動に関する研究

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夏季南アジアにおける降水の季節内変動、日変動に関する研究(一木 拓哉) 発表要旨 :

1. はじめに
インド、バングラデシュの国境付近のメガラヤ高原は、インドモンスーン地域の
中でも特に降水が多く、メガラヤ高原の南斜面に位置するチェラプンジは、
1860 年8月から1861 年7 月に世界一の年間降水量(26,461mm) を記録した。ま
た、メガラヤ高原を含めた夏季南アジアでは、複数の降水の時間変動パターンが
存在することがわかっている。これまでに、30-60 日周期の変動
(Madden-Julian 振動) や、約14 日周期の季節内変動パターンが示されてきた
(Fujinamiet al. 2011)。一方で、夜間にピークを持つ降水の日変動が存在する
ことも分かっている( Ohsawa et al. 2000; Romatschke and Houze 2011)。さら
に、これらの変動パタ ーンの同期に関する議論もなされてきた。深夜に発達す
る下層ジェットとメガラヤの地形効果による対流形成が、夜間の降水を引き起こ
すまたは強めること、またこの日変動は季節内変動で降水量が強まる期間(以
下、活発期とする) に顕著に見られることが事例解析により示された(Sato
2013)。しかし、長期間のデータを用いて、メソスケール循環場と降水日変化の
関係や季節内変動の同期メカニズムについての研究は行われていない。そこで本
研究では、長期間の降水量データを用いて、夏季メガラヤ付近における降水の季
節内変動と日変動の同期メカニズムを調べる。

2. 使用データと解析手法
本研究では、降水量データとしてTRMM-3B42 を、また大気循環場のデータとし
て、 JRA-55 の再解析データを用いた。解析期間は、TRMM データが取得可能な
1998 年から2014 年の夏季(6 月-9 月)とした。解析の手順は以下の通りであ
る。24 -26◦N, 90-92◦Eで領域平均した日降水量データに7-25日のバンドパス
フィルターを施し、標準偏差±1σ を基準として、季節内変動の活発
(active-phase) と不活発期(break-phase) を定義した。活発期と不活発期のそ
れぞれについて、降水や循環場の日変化を解析した。

3. 解析結果
季節内変動活発期において, 比較的強い雨が、深夜から朝にかけて集中して発生
していることがわかった。これには、降水強度、降水頻度の時間的に偏り、すな
わちそれぞれ現地時刻3-6 時に強く、または多く発生したことが寄与していた。
逆に不活発期においては、降水強度、降水頻度ともに時間帯的な偏りが比較的小
さかった。現地時刻6 時の降水量、風速を活発期、不活発期で比較すると、活発
期の降水システムの南側で下層の南西風偏差が確認され、活発期に同時間帯の降
水量が多くなるのは、下層の水平風の西、南風成分が寄与していることが予想で
きた。このことは、Sato (2013) の主張と一致している。さらに、メガラヤ南部に
おける、季節内変動活発期の水平風の日変化が、900-950hPa の高度で顕著に見
られた。不活発期のそれと比較すると、同高度における水平風変動の振幅の強さ
に関しては、大きな差異は見られなかったが、不活発期では風速自体が弱いた
め、この風が日変化するとしても、降水や降水の日変動には大きく寄与しないと
いう事が考えられる。以上より本研究で、夏季のメガラヤ高原周辺において、降
水の季節内変動の活発期に、日変動も顕著に見られるという二つの降水時間変動
パタ ーンの同期性の存在と、それに対する下層の水平風の寄与が確認できた。
またさらに、先行研究の事例解析により、この地域の局地的な降水の日変動の要
因と示唆された、夜間の下層ジェットの存在が確認できた。ただし、このジェッ
ト、メガラヤの局地的な降水が最も強まる時間帯は6 時間ほどラグがあった。今
回の発表ではこれらに加え、領域気候モデル(WRF)を用いた解析結果、それにた
いする考察についても発表する。

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
三村 慧 Mimura Satoru
E-mail:s-mimura@ees.hokudai.ac.jp