****************************************************************************************************************

第 206 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2010/10/26(火) 15:30 -- 17:30
場 所:環境科学院 D201講堂

発表者:田内 裕人(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:全球降水マップGSMaPによる降水強度場の特性と誤差要因に関する研究

****************************************************************************************************************

全球降水マップGSMaPによる降水強度場の特性と誤差要因に関する研究(田内 裕人) 発表要旨 :

  IPCC第4次報告書により、近年の気候変動に伴った降水場の変化が
  報告されている。また多雨地域の降水の激化及び少雨地域の渇水が
  今後予想されている。こうした背景を受け、洪水対策や
  渇水対策といった実利用の方面から、全球レベルで降水場の
  推定及び理解が必要である。そのための手法として、近年発達してきた
  人工衛星による観測を利用した降水場の推定が注目を集めている。
  本研究ではその一例として、JAXAから提供されている
  Global Satellite Mapping of Precipitation(GSMaP)に注目する。
  このデータセットは、低軌道衛星搭載のマイクロ波放射計データを
  用いて作成されたもので、その手法は降水粒子によるマイクロ波の
  散乱・減衰と降水粒子によるマイクロ波の放射特性を利用したものである
  (Aonashi et al., 2009)。

  先行研究によれば、GSMaPによる降水量とレーダーアメダス解析雨量との間には
  大きな差が見いだされており、その要因について、陸上域については
  以下の2点にあるといわれている(Kubota et al., 2009)。
  1.地表面の状態、特に積雪がある場合にはマイクロ波の積雪内部における散乱
  2.統計的に見積もった降雨粒子、及び氷晶粒径分布の実際との相違
  しかし考えられる個々の誤差要因に注目し、解析を行った研究は存在しない。

  そこで本研究では、GSMaP降水強度データの具体的な誤差要因を調べ、
  衛星降水観測データを利用する際に注意すべき点を明確にすることを
  目的と位置づけた。誤差要因の特定を容易にするために、解析には計算過程が
  最も単純なGSMaP-MWRデータを用いた。また北緯35°以南の降水強度算出に用いて
  いるTRMM-TMIデータを分離する際、GSMaP-TMIデータセットを使用した。
  検証を始めるにあたり、条件を単純化するために北海道帯広市、
  北海道別海町、埼玉県久喜市郊外の3領域を選択した。その理由は、
  緯度/経度0.25度のGSMaPメッシュ内の地形が平坦で地形性降雨の影響を
  考慮する必要がないためである。また検証期間は2003年から2006年の
  4年間の積雪のない時期を用いた。対照用データにはAMeDAS観測点における
  時間降水量データを用いた。解析に用いる指標は2データ間の相関係数と
  回帰直線の係数、両方のデータで降雨が観測された事例が占める割合(POD)である。

  まずGSMaPが降水強度を推定するのに対し、AMeDASで観測されるのが
  時間降水量であることに着目し、降水強度の時間変化の激しい降水イベント
  ではGSMaP降水強度とAMeDAS時間降水量との間で不一致が生じると考え、
  その影響を除くため時空間スケールの大きな降水イベントの抽出を行った。
  降水イベントについては、GSMaPデータを降水量と比較できないと考えたためである。
  ここではAMeDASが6時間以上連続して1mm/h以上の時間降水量を観測した
  降水イベントを抽出した。解析の結果、GSMaPでは時空間スケールの小さな
  降雨イベントは検出できない、もしくは大きな誤差を持つことを確認した。
  さらに地域間で各統計量の値を比較したところ、北海道の2領域ではGSMaPは
  相関係数、回帰係数共に非常に低く、またPODも非常に低い値を
  示しており、降雨をほとんど検出できていないことが明らかになった。
  この北海道地域におけるGSMaPの感度の低さの原因がTRMM-TMIデータの
  有無以外にも存在することを確認した。

  今後の展望としては、AMeDAS観測点データに加え、空間代表性の高い
  レーダーアメダス解析雨量を用い、北海道領域での降水に対するGSMaPの感度の
  低さの原因を調べる予定である。

-----
連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
干場康博
E-mail:h-dragon@ees.hokudai.ac.jp