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第 161 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2004年 11月2日(火) 午後 16:30 - 18:30
場 所:地球環境科学研究科 C104

発表者:二瓶 直樹 (地球環境科学研究科 大循環力学講座 修士2年)
題 目:流跡線と人工衛星データを用いたTTL(Tropical Transition Layer) における脱水過程の解析

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流跡線と人工衛星データを用いたTTL(Tropical Transition Layer) における脱水過程の解析 (二瓶 直樹) 発表要旨 :

  
 水蒸気は強力な温室効果気体であるだけでなく、凝結し雲を形成するため、 
 地球の放射収支に影響を与える。このように水蒸気は重要な微量気体成分であ 
 る。 
   
 成層圏は対流圏に比べ水蒸気量が少ないことが知られている。この乾燥状態を 
 説明するために、Brewer(1949)は成層圏の空気は主に低温の熱帯対流圏界面を 
 通過して流入すると推論した。さらに、Newell and Gould-Stewart (1981)は 
 平均熱帯対流圏界面気温では、成層圏の乾燥状態を再現できないことから、流 
 入域が最も気温の低い熱帯西太平洋に限られるという「成層圏泉仮説」を提唱 
 した。しかし、最近の研究によれば熱帯西太平洋上の圏界面付近の平均鉛直流 
 は下向きであることが明らかになってきた。 
  
 脱水過程の理解の鍵となる対流圏と成層圏の境界は、最近まで対流圏界面とし 
 て扱われてきたが、化学的,力学的に性質が徐々に遷移する層と捉える立場が 
 提案されTropical Transition layer(TTL)と呼ばれるようになった。また、 
 TTL 内で水平風が卓越なことから水平移流による脱水過程が注目されるように 
 なった。(Holton and Gettelman 2001)。さらにRandel et al.(2001)は、急速 
 かつ準水平的な輸送によって脱水された空気塊が、熱帯から極方向へ輸送され、 
 ほぼ全球の下部成層圏に乾燥した大気層を形成する様子を衞星データを用いて 
 オイラー的に捉えた。 
  
 本研究の目的は、衞星観測された水蒸気量と客観解析場に基づく流跡線とを組 
 み合わせることによりTTL内水蒸気移流に伴う脱水を定量化し、上記の水平移 
 流仮説の妥当性をラグランジュ的に検証することである。用いる衞星データは 
 Halogen Occultation Experiment(HALOE)Level 2のオゾン、水蒸気、メタン混 
 合比である。脱水量を定量化するためにTTL内における流跡線を計算し、流跡 
 線で結ばれる複数個の衞星観測値の比較を行う(Match法)。この手法は極渦内 
 でのオゾン破壊量の定量化のために開発されてきた(Rex et al. 1998)が、熱 
 帯域での気象データの不足、モデルの精度等を考慮して,まず流跡線の計算結 
 果の妥当性を検討する必要がある。そこでTTL内で化学的に不活性なメタン混 
 合比の保存性を利用し、メタン混合比が保存されることを確認する。 
   
 今回の発表では 成層圏へ大気が流入する際の脱水過程の研究の歴史と本研究 
 の概要を紹介するとともに、衞星データ解析の現状について報告する。解析で 
 は得られたデ−タから温位面上の値を内挿するために、観測値の高度分布と各 
 組成の高度分布を描いた。また衞星デ−タの観測点を起点とした等温位面前方 
 流跡線の図も示す予定である。 
  
 今後は、、流跡線の計算結果と衞星観測の時空間分布からMatchと見なされる 
 ペアを探しだし、メタン混合比の保存性について考察を行った後、Matchと考 
 えられる流跡線から脱水量を定量的に求める。 
  

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連絡先

三角 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学 / 気候モデリング講座
mail-to:misumi@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2298