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第 70 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2000年 6月 12日(月) 午後 16:30 〜 18:30
場 所:地球環境科学研究科 管理棟 2F 講堂

発表者:田中 潔 (気候モデリング講座 PD)
題 目:斜面上での傾圧不安定による高密度水の輸送過程

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斜面上での傾圧不安定による高密度水の輸送過程 (田中 潔) 発表要旨 :

 極海域における底・深層水形成の重要な要因の一つである海底斜面に沿 
 う密度流の傾圧不安定とそれに伴う海水の輸送過程を調べるために、非静水圧三 
 次元モデルを用いて数値実験を行った。本研究では、特にこれらの過程に対する 
 海底斜面の効果に焦点を当てた。現実海洋における大陸棚及び大陸棚斜面の傾斜 
 を考慮して、実験は海底斜面の傾斜 S について 0 <(=) S <(=) 0.04 の範囲 
 に渡って行われた。海底斜面は傾圧不安定に対して二つの相反する効果を持つ。 
 一つは不安定を弱める効果(安定化)であり、これは一般に良く知られている地 
 形性ベータ効果と水深の増加に起因する。もう一つは不安定を強める効果であり、 
 これは等密度面の傾きが斜面上で急になり有効位置エネルギーが増大することに 
 起因する。実験の初期(developing stage)においては後者の不安定化が卓越す 
 るため、傾圧不安定波の発達は斜面傾斜 S の増加に伴って早くなる。また、レ 
 イノルズストレスによる非線形効果も二次的に流れの安定性に影響を及ぼし、結 
 果として不安定波の成長率は S におおよそ比例する。不安定波が成長して有限 
 振幅となった後は(mature stage)、海底斜面の持つもう一つの効果すなわち安 
 定化作用が、特に急斜面のケースの下部斜面域において卓越するようになる。そ 
 のため、急斜面のケースにおいては活発な渦活動が上部斜面域に偏在するが、緩 
 斜面のケースにおいては斜面全域に渡って見られる。このような渦活動の斜面傾 
 斜に対する依存性は高密度水の沈降過程に重大な影響を及ぼす。緩斜面のケース 
 では、全体として不安定化が安定化に勝るために高密度水の沖側(斜面下方)へ 
 の輸送効率は S とともに増加する。これに対して、急斜面のケースでは、特に 
 下部斜面域での安定化が不安定化に勝るために高密度水の輸送効率は S ととも 
 に減少する。その結果、最も効果的な輸送は S=0.005 のケースにおいて生じる。 
 不安定渦による高密度水の輸送は急傾斜のケースの下部斜面域では著しく減少し、 
 その大きさはエクマン輸送とほぼ同じなる。しかしながら、エクマン輸送が薄い 
 境界層内(厚さ 23m )でしか生じないのに対して、不安定渦による輸送はその 
  4 - 8 倍の厚さ( 100m - 200m )の層内で生じるため、全体(鉛直積 
 分量)としては不安定渦による輸送の方がエクマン輸送に比較して効果的である。 
  なお、この研究は発表者が大学院学生時に行ったものである。 
   

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連絡先

稲津 將 / 西浜 洋介 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学 / 気候モデリング講座
mail-to:inaz@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2298