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第 46 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:1999年 10月 25日(月) 午後 4:30 〜 6:30
場 所:地球環境科学研究科 管理棟 2F 講堂

発表者:能登 正幸 (気候モデリング講座 D3)
題 目:マイワシと海洋環境変動(D論予備審査の前に)

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マイワシと海洋環境変動(D論予備審査の前に) (能登 正幸) 発表要旨 :

 近年の著しいマイワシ資源の減少原因の解明を目的に,1979-1994年の豊漁か 
 ら不漁に急変化した期間の資料を使って,マシラス〜満1歳魚の生き残りの指 
 標となる自然死亡係数を求め,その死亡係数とマイワシが分布回遊する海域の 
 海面水温との関係を調べた. 
 その結果,有意な正相関が1月〜4月の黒潮続流域 
 (30N-35N,145E-180E)に見られ,そこでは海 
 面水温が平年より高い年で死亡係数が高い(生残が悪い)という関係を見い出し 
 た(Noto and Yasuda, 1999). 
 つまりマイワシの生き死にを決定する時期と海域を限定することができた. 
 これはそれまで信じられていた「初期減耗仮説」を覆すものでもあった. 
  
 次に,衛星海面高度計データを加工して海流場を作成し,その海流場とマイワ 
 シ産卵量・産卵分布データを使用して産卵場からの卵稚仔輸送数値実験を行なっ 
 た. 
 その結果,1月〜4月の黒潮続流域に多くの稚魚が輸送されることが示され,マイ 
 ワシの生残が回遊経路上の水温に代表される環境変動と緊密な関係があることを 
 明らかにした. 
  
 更に,資源予測モデルの開発にも取り組んできた. 
 水温と卵〜満1歳までの死亡係数の年々の統計的な関係を基に,海面水温のみを 
 入力値とする簡略化された資源変動モデルを開発した. 
 このモデルを統計的関係の明らかでない1950-1978年に適用したところ,実際の 
 漁獲量変動と良く一致した. 
 このことは,マイワシ仔稚魚の回遊経路上に当たる黒潮続流域の環境が,マイワ 
 シの生残を支配するという仮説を支持すると共に,マイワシ資源の長期的な変 
 動も支配している可能性を示唆している. 
 黒潮続流域の水温の長期的な予測が可能になれば,本モデルによって長期の資源 
 変動も予測可能である. 
  
 最近は戦前の漁獲量にも注目し,マイワシ資源の長周期的な変動についても調 
 査している. 
 戦前の海面水温データは補正が必要であり,その手法の提案と共に,得られた 
 1910年以降の海面水温を使った資源モデルは実際の漁獲量変動を良く再現する 
 ことを明らかにした. 
  
 なぜ水温に代表される環境変動がマイワシの生残を左右するのか,という問題が 
 残っているが,このことを追求する際,以上の研究成果は重要な情報となり得る 
 と考えられる. 
  
 次回の発表者   伊藤 潤一郎 (気候モデリング講座)  (11/8)  

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連絡先

伊藤 頼 / 谷口 博 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環 / 気候モデリング講座
mail-to:yori@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357