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第7回 大気海洋物理系 B 棟コロキウムのお知らせ

日 時:1998年 6月 22日(月) 午後 4:30 〜 6:30
場 所:地球環境科学研究科 管理棟 2F 講義室

発表者:小高 正嗣 (東大数理科学研究科 D3)
題 目:火星大気を想定した乾燥大気対流の数値計算

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発表要旨:

火星の温度構造, 循環構造の決定にはダストの存在が大きな役割を果た すと考えられている (Zurek et al., 1992). ダストを地表面から持ち上 げ大気中に混合させる主な担い手は, 放射と地表面からの熱的強制によ る火星下層大気での熱対流である. 例えば, Hess et al.(1977)は Viking 着陸船の風速時系列から周期が 20 分, 振幅数 m/s の風の変動 が存在していることを示し, これを熱対流と関連付けて議論している. ところが火星大気状況下で発生する熱対流の運動構造を陽に表現する研 究はこれまで行われていない.

火星大気の熱対流に対応する地球大気中の循環構造は, 放射により駆動 される積雲対流である. 積雲対流の循環構造を理解するために, それを 理想化した湿潤大気の放射対流構造が二次元の対流モデルを用いて研究さ れてきた. (例えば Nakajima and Matsuno, 1988; Tao et al., 1996).

同様の理想化と手法を火星大気に応用することで, 火星大気の対流に特徴 的な構造が描き出されることが期待される. 本研究では火星大気の対流構 造を研究する手始めとして, 放射強制で駆動される火星大気を理想化した 乾燥大気対流のおおまかな様子を二次元対流モデルを用いて調べることに する. 特に対流セルの構造, 風速, 及びダストを想定したトレーサーの混 合の様子に注目する.

計算の結果, 以下の対流の様子が明らかになった.

・熱平衡状態において対流セルの縦横比は 2:1 程度である. 上昇流 の大きさは 20 m/s に達する. 水平風の大きさは 10 m/s 程度であ り最下層(50m)でも 同程度の強さの風が吹く.
対流の場は非定常であり, その変動する時間スケールは1時間程度.

・対流の発達は以下のような過程をたどる.
まず地面からの熱供給により高度 200m までの熱境界層が形成され る. その領域で不安定を生じ 30分後にはサイズ 500m 程度のプリュー ムが 500m 程度の間隔で成長を始める. 2時間後には高さ・幅とも 5 km程度のセル構造が卓越する.

・ダスト(トレーサー)は対流の発達とともに 1〜2 時間以内で速やか に対流層内に行き渡る.

計算された乱流拡散係数の大きさから見積もられる風速の乱流成分と対流 場の風速の比較, 及び標準実験と地表付近の分解能を高くした計算結果と の比較から, 対流を表現するための分解能は水平鉛直ともに 100m 程度で 十分であることが確認された.

※ 次週 6/29(月)は,藤井(気候モデリング D1)の予定.

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連絡先

岡田直資 / 谷口 博 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻気候モデリング講座

mail-to:taniro@ees.hokudai.ac.jp / Tel : 011-706-2372