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第 379 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時:11月30日(木) 午前 10:30 - 12:00
Date :Thu., 12 Oct. 10:30 - 12:00
場所 :低温科学研究所 3階 講堂
Place:Institute of Low Temperature Science, 3F, Auditorium

発表者:堀之内武 (地球環境科学研究院 / 教授)
Speaker:Takeshi Horinouchi (Faculty of Environmental Earth Science / Professor)
題目:あかつきの観測による金星大気のスーパーローテーションと惑星規模波動の長期変動 ­
Title:Long-term variability of the superrotation and planetary scale waves in Venusian atmosphere observed by Akatsuki ­

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あかつきの観測による金星大気のスーパーローテーションと惑星規模波動の長期変動
Long-term variability of the superrotation and planetary scale waves in Venusian atmosphere observed by Akatsuki
堀之内武 (地球環境科学研究院 / 教授)
発表要旨:

金星探査機「あかつき」は,2015年12月より現在も観測を続けている金 星の「気象衛星」である。搭載する紫外カメラUVIでは,金星の雲頂付 近における雲と紫外線吸収物質が織りなす模様が捉えれ,その動きから 風速が推定できる。私たちはあかつきの観測に適した雲追跡法を開発し ており,その性能(精度やデータ密度)は過去の研究に比べてはるかに 向上している。なお,あかつき以前には,米国の衛星 Pioneer Venus Orbiter (PVO, 1978-1992), 欧州の衛星 Venus Express (2006-2014) が,金星大気の長期観測を実施した。
大気のスーパーローテーションとは,ある緯度・高度の帯状平均風が, 固体惑星がもつ自転軸周りの角運動量の最大値(単位質量当たりで定義 するので赤道地表面での値)に比べて大きな角運動量を持つ状態を指す (局所的な定義の場合)。金星の自転は周期は243日と遅いが,その大 気は自転軸周りに100 m/sに達する流れをもっており,金星大気の大部 分がスーパーローテーションの状態にある。また,金星の紫外画像に現 れる濃淡より,約4日周期と約5日周期の惑星規模波動が存在すること が古くから知られている。
本研究では,観測開始から2023年4月までの紫外観測データから得られ た風速の変動を解析し,以下の特徴を見出した。

  1. 雲頂付近のスーパーローテーションの速さは幅広い時間スケールで 長期変動する。そのスペクトルはレッドノイズ的で,何らかの内部 変動の現れであると示唆される。
  2. スーパーローテーション(または雲層)には南北半球間に非対称が 存在し,その度合いは変動する。
  3. 4日波の周期はスーパーローテーションの変動にあわせて変動する 一方で5日波の周期は比較的安定している。
本研究以前には,スーパーローテーションの長期変動に何らかの固定的 な周期性が存在することを示唆する研究が行われてきたが,結論がでて いなかった。1. はそれに対する回答を与えるものである。2. について は注意を要する:得られた風速の半球間非対称は,ある程度は観測され る高度の半球間の違いに起因する可能性がある。3. により,4日波は 雲頂付近の比較的狭い高度範囲に存在する一方で,5日波は比較的低い 高度から存在することが示唆される。観測からこのような示唆が得られ たことは初めてであり,両波の起源解明に繋がる重要な発見であると言 える。

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連絡先

水田 元太
mail-to: mizuta__at__ees.hokudai.ac.jp
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