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第342回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時:12月10日 (木) 9:30 - 12:00
Date :Thu., 10 Dec. 9:30 - 12:00
ツール:Zoom (Online)
Tool :Zoom (Online)

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発表者:塚田 大河(大気海洋物理学・気候力学コース/D1)
Speaker:Taiga Tsukada (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics / Doctoral Course Student D1)
題目:ひまわり8号赤外画像を用いた台風内部コア領域の風速推定
Title:Estimation of the tangential winds in typhoon inner core region using the infrared images of Himawari‐8

発表者:堀之内 武(地球環境科学研究院/教授)
Speaker:Takeshi Horinouchi (Faculty of Environmental Earth Science/Professor)
題目:令和2年7月豪雨の環境場について:水蒸気供給,ジェット,シルクロードパターン
Title:Moisture supply, jet, and Silk-Road wave train associated with the prolonged heavy rainfall in Kyushu, Japan in July 2020

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ひまわり8号赤外画像を用いた台風内部コア領域の風速推定
Estimation of the tangential winds in typhoon inner core region using the infrared images of Himawari‐8
塚田 大河 (Taiga Tsukada) 発表要旨:

静止気象衛星は熱帯低気圧をライフサイクルにわたり切れ目なく観測する唯一の 手段である。台風内部コア領域の風速構造をモニタリングすることは,台風力学 の理解や強度推定・予測において重要である。内部コア領域の観測には航空機観 測やマイクロ波観測,合成開口レーダー観測などが用いられるが,時空間分解能 や観測範囲の限界により,内部コア領域の風速構造を長時間にわたり継続的に推 定することは困難であった。 Tsukada and Horinouchi (2020; 以降TH20) は2015年に正式運用を開始した新世 代気象衛星「ひまわり8号」の時空間分解能の高さを活かし,内部コア領域下層 の接線風速を時空間スペクトル解析によって導出する手法を開発した。さらに同 手法を2017年台風第21号(Lan)の日中の可視画像に適用することで内部コア領域 の運動の特徴を明らかにし,手法の有用性を示した。しかしこれを赤外画像に 適用する際,解析対象領域に上層雲が入り込んできた場合にその影響を受けやす いという問題が生じる。そこで本研究では上層雲の影響を受けにくい新たな風速 推定手法を開発し,赤外画像を用いて夜間も含めて風速推定を行うことを目的と する。新手法では台風中心からの距離を固定して取得した方位角-時間断面図に対 して線分検出を行い,検出される線分の傾き(角速度に対応)を調べる。本手法を TH20と同様の2017年台風第21号(Lan)に適用することで,TH20の手法では下層風 の導出に失敗するケースも克服できることを示した。台風Lanのベストトラック強 度解析では気象機関により異なる強度変化が報告された時間帯(2017年10月21日12 Z 周辺)がある;気象庁(JMA)は"強度維持"と,米軍合同台風警報センター(JTWC)は "発達"と解析。本手法はこの時間帯について台風の眼の中での60%程度の風速強化 を示しており,定性的にはJTWCの解析を支持する結果となった。


令和2年7月豪雨の環境場について:水蒸気供給,ジェット,シルクロードパターン
Moisture supply, jet, and Silk-Road wave train associated with the prolonged heavy rainfall in Kyushu, Japan in July 2020
堀之内 武 (Takeshi Horinouchi) 発表要旨:

2020年7月は九州や中部地方などで豪雨が発生し,「令和2年7月豪雨」と名付 けられたが,中でも雨が多かった7月上旬の九州に焦点をあてて話をする。7 月3日から11日にかけて,九州では強雨が続き球磨川などの氾濫をもたらした。 九州全体での10日程度の時間スケールの雨量は,同時期の観測史上最大だった。 本豪雨については「水蒸気が大量に流入した」と言われるが,それは具体的に はどのように起こったのであろうか。客観解析を用い,複数年の比較から特徴 を適切に記述することを試みる。結論は以下のようにまとめられる。 この時期,九州に流入した水蒸気フラックスは過去最大級で,流入に対する収 束の割合も高かった。しかし,刻々の水蒸気フラックスは,梅雨前線帯に沿っ ての典型値より特に大きくはなく,可降水量も典型的だった(いくつかの報道 でこの点は誤解されている)。10日程度の平均で九州への水蒸気フラックスが 大きかったのは,下層のジェットがあまり動かず,強さも持続したからである。 その要因は,黄海付近で平年より大きく発達し持続した上層の停滞性トラフで ある。高めの収束割合は,トラフ前面での上昇で説明できる。このトラフは, アジアジェット上を伝わる停滞ロスビー波の一端であった(シルクロードパター ン)。6月の典型的なシルクロード停滞波列は40N付近で20E, 70E, 120Eあたり でトラフとなる3波長構造であるが,2020年はそれが顕著で,7月上旬まで続 いた。この持続性はジェットの北上が遅れたことと関連すると考えられる。さ らに,7月3-11日の豪雨に関わる黄海上のトラフの強化には,亜寒帯のトラフ からの波束の「乗り換え」が重要だったことが示唆される。それは低気圧切離 を伴う非定常,非線形な過程であった。一連の力学の解明は,今後の研究に期 待する。 本研究の一部は,発表者も参加している気象庁の「異常気象分析検討会」や関 連会議で,豪雨発生直後から始めた議論に基づく。その内容は共著で投稿中で ある。

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連絡先

中山 佳洋
mail-to: Yoshihiro.Nakayama__at__lowtem.hokudai.ac.jp
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