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第340回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時:10月15日 (木) 9:30 - 12:00
Date :Thu., 15 Oct. 9:30 - 12:00
ツール:Zoom (Online)
Tool :Zoom (Online)

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発表者:辻野 智紀(地球環境科学研究院/博士研究員)
Speaker:Satoki TSUJINO (Faculty of Environmental Earth Science/Postdoctoral Researcher)
題目:ひまわり 8 号から得られた 2018 年台風 Trami の壁雲置き換わりに伴う内部コアの接線風分布
Title:Inner-core wind field in a concentric eyewall replacement of Typhoon Trami (2018): A quantitative analysis based on the Himawari-8 satellite

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ひまわり 8 号から得られた 2018 年台風 Trami の壁雲置き換わりに伴う内部コアの接線風分布
Inner-core wind field in a concentric eyewall replacement of Typhoon Trami (2018): A quantitative analysis based on the Himawari-8 satellite
辻野 智紀 (Satoki TSUJINO) 発表要旨:

台風を含めた熱帯低気圧は, 熱帯海洋上で発生・発達する気象擾乱である. 発達した台風は, 中心 (眼) を取り囲むリング状の活発な積乱雲群 (壁雲) 付近で, 低気圧性循環の最大値 (最大接線風) をもつ. 発達した台風はしばしば, 眼を 囲む壁雲のより外側半径に, 同心円状の壁雲を複数有する (多重壁雲構造). 外側の壁雲形成位置には, 内側壁雲と同様に接線風の極大値も現れることがある. 一度多重壁雲が形成されると, 1-2 日の時間スケールで内側の壁雲が衰退し, 外側の壁雲が内側に収縮する「壁雲の置き換わり」と呼ばれる現象が発生する. 内側壁雲の衰退に伴い, 接線風の極大も衰退するため, 壁雲の置き換わりは 短時間での台風強度変化を引き起こす顕著な現象の一つである. 内側壁雲の衰退は, 力学的, 熱力学的にいくつかメカニズムが提案されているが, 本研究では特に, 内側壁雲と外側壁雲の力学的な相互作用に着目する. Kossin et al. (2000) は水平 2 次元の順圧非発散系で, 多重壁雲をもつ台風の 理想化数値実験を行った. その結果, 内側と外側での壁雲間の順圧不安定により (低気圧性回転方向に) 非対称な渦が発達, 渦度が再分配されることにより, 内側壁雲の風速が減速されることを示した. このプロセスは内側と外側の 壁雲間の距離が短いほど起こりやすい. 実際に, マイクロ波衛星観測にもとづく 統計解析は,壁雲間の距離が短いほど, 壁雲の置き換わり時間が短いことを示している. しかし観測から接線風の時間変化を見積もり, 非対称な渦輸送による内側壁雲での 接線風の衰退を示した研究はない. 本研究では, Tsukada and Horinouchi (2020) で 開発された, ひまわり衛星観測に基づく接線風の定量的な推定を用いて, 内側壁雲での 接線風衰退への非対称渦輸送の役割を検証する. 対象とする台風は 2018 年の台風 Trami である. この台風は成熟期に多重壁雲形成と, 内側壁雲の衰退を示した. 多重壁雲形成後に推定された接線風は, 半径 30 km の内側壁雲内縁で 50 m s-1 であった. 一方, 約 1 日後の内側壁雲衰退時の推定接線風は, 同じ半径で20 m s-1 まで減少した. この推定された接線風は, 航空機観測によって直接観測された風速と同程度であった. 動径方向に (台風中心からの絶対角運動量で定義される) ポテンシャル半径を用いた 渦度方程式と接線風から得られた渦度の時間変化を考察することで, 内側壁雲における 接線風の衰退は, 主に非対称渦の渦度輸送によってもたらされたことが示された.

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連絡先

中山 佳洋
mail-to: Yoshihiro.Nakayama__at__lowtem.hokudai.ac.jp
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